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Industrial Wood Block Exercise Tシャツ
¥4,500
vivian sui method 数見亮平、桐月沙樹、松尾信太郎によって2016年に結成した日本の音楽ユニット。 アメリカ人ヨーガインストラクターであるVivian Suiの教えが元になっている。 Vivian Suiはヨーガエクササイズの中に版画を取り入れ、ヨーガの緩やかな動作の中に、大胆で過剰な動作で行う版画の彫りと、静かな刷りの呼吸法を組み込むことで、 精神と肉体の解放を促すことを目的とするウッドブロックエクササイズを提唱している。 知人からVivianを紹介された数見は、そのエクササイズから敬愛する棟方志功の面影を感じ、Vivianの元でウッドブロックエクササイズを2ヶ月という驚異的な速度で習得するも、以前から気に入らなかったおおらかな姿勢に我慢の限界を迎えVivianの元を去る。 帰国後、エクササイズにインダストリアルな表現を組み合わせたパフォーマンス講座を開催する。 この講座に熱心に通っていた版画家である桐月、音楽家の松尾信太郎を説得し、一応Vivianの発想に敬意を表しバンド名をvivian sui methodとし結成。 インダストリアル・ブロックエクササイズ・パフォーマンスというジャンルを突き進んでいる。 2016年名古屋のKAKUOZAN LARDERにて開催された数見の個展のクロージングパーティーで”産業革命”と対バン形式でデビューライブを行う。vsmは木版画で、産業革命は活版印刷で作業音をノイズ音楽として演奏と印刷を同時に行う方法を確立する。 2018年、原宿で開催された『やりなげアートブックフェア 』、2019年、京都で開催された桐月の個展のレセプションパーティー、東京造形大学のCSLABにて単独公演を開催。2020年、再び名古屋のKAKUOZAN LARDERにて開催された数見の個展のオープニングパーティーで”産業革命”と対バン。凱旋ライブを行う。 その後、様々な場所でライブパフォーマンスを行って来たが、2021年松尾が家庭の事情で世界各国を旅することになり活動を休止。 2022年、数見、桐月にアーティストの齋藤匠、須田貴哉を加え4人編成で活動を再開した。 vsmが突き進むインダストリアル・ブロックエクササイズを、メンバーの齋藤匠がグラフィカルにデザインしたTシャツ。少しピンクがかったボディにブラウンインクで印刷。 狂気と少しのお茶目さが現れているvsmらしい気がする一品。 ナチュラル Sサイズ:着丈65, 身幅42, 袖丈19 cm Mサイズ:着丈69, 身幅52, 袖丈20 cm Lサイズ:着丈73, 身幅55, 袖丈22 cm XLサイズ:着丈77, 身幅58, 袖丈24 cm 綿100% 5.6オンス design by Takumi Saito text by takaaki akaishi
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vivian sui method ロングスリーブ Tシャツ
¥5,500
vivian sui method 数見亮平、桐月沙樹、松尾信太郎によって2016年に結成した日本の音楽ユニット。 アメリカ人ヨーガインストラクターであるVivian Suiの教えが元になっている。 Vivian Suiはヨーガエクササイズの中に版画を取り入れ、ヨーガの緩やかな動作の中に、大胆で過剰な動作で行う版画の彫りと、静かな刷りの呼吸法を組み込むことで、 精神と肉体の解放を促すことを目的とするウッドブロックエクササイズを提唱している。 知人からVivianを紹介された数見は、そのエクササイズから敬愛する棟方志功の面影を感じ、Vivianの元でウッドブロックエクササイズを2ヶ月という驚異的な速度で習得するも、以前から気に入らなかったおおらかな姿勢に我慢の限界を迎えVivianの元を去る。 帰国後、エクササイズにインダストリアルな表現を組み合わせたパフォーマンス講座を開催する。 この講座に熱心に通っていた版画家である桐月、音楽家の松尾信太郎を説得し、一応Vivianの発想に敬意を表しバンド名をVivian Sui Methodとし結成。 インダストリアル・ブロックエクササイズ・パフォーマンスというジャンルを突き進んでいる。 2016年名古屋のKAKUOZAN LARDERにて開催された数見の個展のクロージングパーティーで”産業革命”と対バン形式でデビューライブを行う。vsmは木版画で、産業革命は活版印刷で作業音をノイズ音楽として演奏と印刷を同時に行う方法を確立する。 2018年、原宿で開催された『やりなげアートブックフェア 』、2019年、京都で開催された桐月の個展のレセプションパーティー、東京造形大学のCSLABにて単独公演を開催。2020年、再び名古屋のKAKUOZAN LARDERにて開催された数見の個展のオープニングパーティーで”産業革命”と対バン。凱旋ライブを行う。 その後、様々な場所でライブパフォーマンスを行って来たが、2021年松尾が家庭の事情で世界各国を旅することになり活動を休止。 2022年、数見、桐月にアーティストの齋藤匠、須田貴哉を加え4人編成で活動を再開した。 フロントにvsmロゴと木刻EXPERIENCEとを印刷したシンプルな一品。 ブラック Sサイズ:着丈65, 身幅49, 袖丈60 cm Mサイズ:着丈69, 身幅55, 袖丈62 cm Lサイズ:着丈73, 身幅52.5, 袖丈63 cm XLサイズ:着丈77, 身幅58, 袖丈64 cm 綿100% 7.1オンス design by ryohei kazumi text by takaaki akaishi
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木刻EXPERIENCE Tシャツ
¥4,500
SOLD OUT
( vivian sui method ) 木刻EXPERIENCE 数見亮平、桐月沙樹、松尾信太郎によって2016年に結成した日本の音楽ユニット。 アメリカ人ヨーガインストラクターであるVivian Suiの教えが元になっている。 Vivian Suiはヨーガエクササイズの中に版画を取り入れ、ヨーガの緩やかな動作の中に、大胆で過剰な動作で行う版画の彫りと、静かな刷りの呼吸法を組み込むことで、 精神と肉体の解放を促すことを目的とするウッドブロックエクササイズを提唱している。 知人からVivianを紹介された数見は、そのエクササイズから敬愛する棟方志功の面影を感じ、Vivianの元でウッドブロックエクササイズを2ヶ月という驚異的な速度で習得するも、以前から気に入らなかったおおらかな姿勢に我慢の限界を迎えVivianの元を去る。 帰国後、エクササイズにインダストリアルな表現を組み合わせたパフォーマンス講座を開催する。 この講座に熱心に通っていた版画家である桐月、音楽家の松尾信太郎を説得し、一応Vivianの発想に敬意を表しバンド名をVivian Sui Methodとし結成。 インダストリアル・ブロックエクササイズ・パフォーマンスというジャンルを突き進んでいる。 2016年名古屋のKAKUOZAN LARDERにて開催された数見の個展のクロージングパーティーで”産業革命”と対バン形式でデビューライブを行う。vsmは木版画で、産業革命は活版印刷で作業音をノイズ音楽として演奏と印刷を同時に行う方法を確立する。 2018年、原宿で開催された『やりなげアートブックフェア 』、2019年、京都で開催された桐月の個展のレセプションパーティー、東京造形大学のCSLABにて単独公演を開催。2020年、再び名古屋のKAKUOZAN LARDERにて開催された数見の個展のオープニングパーティーで”産業革命”と対バン。凱旋ライブを行う。 その後、様々な場所でライブパフォーマンスを行って来たが、2021年松尾が家庭の事情で世界各国を旅することになり活動を休止。 2022年、数見、桐月にアーティストの齋藤匠、須田貴哉を加え4人編成で活動を再開した。 鳥取県は日南町でトマト農家を営む"ねこのトマト屋さん"の出版部門"朝昼晩(社)"と共同製作した木刻EXPERIENCET Tシャツのvsm ver. ネイビーボディにゴールドイエローインクでぽってりと印刷した一品。 Sサイズ:着丈65, 身幅47.5, 袖丈18.5 cm Mサイズ:着丈68, 身幅50, 袖丈19.5 cm Lサイズ:着丈71, 身幅52.5, 袖丈20.5 cm 綿100% 6.2オンス design by ryohei kazumi text by takaaki akaishi
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VS Tシャツ woodblock ver.
¥4,000
vivian sui method 数見亮平、桐月沙樹、松尾信太郎によって2016年に結成した日本の音楽ユニット。 アメリカ人ヨーガインストラクターであるVivian Suiの教えが元になっている。 Vivian Suiはヨーガエクササイズの中に版画を取り入れ、ヨーガの緩やかな動作の中に、大胆で過剰な動作で行う版画の彫りと、静かな刷りの呼吸法を組み込むことで、 精神と肉体の解放を促すことを目的とするウッドブロックエクササイズを提唱している。 知人からVivianを紹介された数見は、そのエクササイズから敬愛する棟方志功の面影を感じ、Vivianの元でウッドブロックエクササイズを2ヶ月という驚異的な速度で習得するも、以前から気に入らなかったおおらかな姿勢に我慢の限界を迎えVivianの元を去る。 帰国後、エクササイズにインダストリアルな表現を組み合わせたパフォーマンス講座を開催する。 この講座に熱心に通っていた版画家である桐月、音楽家の松尾信太郎を説得し、一応Vivianの発想に敬意を表しバンド名をvivian sui methodとし結成。 インダストリアル・ブロックエクササイズ・パフォーマンスというジャンルを突き進んでいる。 2016年名古屋のKAKUOZAN LARDERにて開催された数見の個展のクロージングパーティーで”産業革命”と対バン形式でデビューライブを行う。vsmは木版画で、産業革命は活版印刷で作業音をノイズ音楽として演奏と印刷を同時に行う方法を確立する。 2018年、原宿で開催された『やりなげアートブックフェア 』、2019年、京都で開催された桐月の個展のレセプションパーティー、東京造形大学のCSLABにて単独公演を開催。2020年、再び名古屋のKAKUOZAN LARDERにて開催された数見の個展のオープニングパーティーで”産業革命”と対バン。凱旋ライブを行う。 その後、様々な場所でライブパフォーマンスを行って来たが、2021年松尾が家庭の事情で世界各国を旅することになり活動を休止。 2022年、数見、桐月にアーティストの齋藤匠、須田貴哉を加え4人編成で活動を再開した。 vsmロゴwoodblock ver.のTシャツ。 ブラック Sサイズ:着丈65, 身幅47.5, 袖丈18.5 cm Mサイズ:着丈68, 身幅50, 袖丈19.5 cm Lサイズ:着丈71, 身幅52.5, 袖丈20.5 cm 綿100% 6.2オンス design by ryohei kazumi photo & text by takaaki akaishi
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VS Tシャツ
¥2,000
vivian sui method 数見亮平、桐月沙樹、松尾信太郎による日本の音楽ユニット。 アメリカ人ヨーガインストラクターであるVivian Suiの教えが元になっている。 Vivian Suiはヨーガエクササイズの中に版画を取り入れ、ヨーガの緩やかな動作の中に大胆な動作で行う版画の彫りと、静かな刷りの呼吸法を組み込むことで 精神と肉体の解放を促すことを目的とする画期的なウッドブロックエクササイズを提唱している。 知人からVivianを紹介された数見は、そのエクササイズに時代の風を感じ、Vivianの元でウッドブロックエクササイズを2ヶ月という驚異的な速度で習得する。 しかし、数見のエクササイズへの偏執はとどまるところを知らず、敬愛する棟方志功の過剰性を取り入れた異常なプログラムを次々と考案し、他の講座の参加者たちを巻き込みはじめる。 このため、あくまでも精神と肉体の和合を目指すvivianの理想と対立することとなり、Vivianの元を去る。 帰国後、エクササイズに過剰性とインダストリアルな表現を組み合わせたパフォーマンス講座を開催する。 この講座に熱心に通っていた版画家である桐月、音楽家の松尾信太郎を説得し、一応Vivianの発想に敬意を表しバンド名をvivian sui methodとして結成。 インダストリアル・ブロックエクササイズ・パフォーマンスというジャンルを突き進んでいる 2016年9月、名古屋で開催された数見の美術作品の展覧会最終日に"産業革命"との対バン形式でその演奏が披露された。 ブラック Sサイズ:着丈65, 身幅46, 袖丈17 cm Mサイズ:着丈68, 身幅48, 袖丈18 cm Lサイズ:着丈71, 身幅50, 袖丈19 cm ブルー Sサイズ:着丈65, 身幅46, 袖丈19 cm Mサイズ:着丈68, 身幅49, 袖丈20 cm Lサイズ:着丈71, 身幅52, 袖丈21 cm vsm ヨコトリ公演記念! ¥3,000→¥2,000 design by ryohei kazumi photo & text by takaaki akaishi
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Spicy Thoughts Tシャツ
¥4,950
Spicy Thoughts 2023年8月5日〜13日の期間、表参道のMATで開催されたカズミの展覧会を記念して制作したTシャツ。 カズミの作品の中からのイメージをアッシュボディに緑と紫で爽やかに。 Sサイズ:着丈63, 身幅47, 袖丈18 cm Mサイズ:着丈68, 身幅52, 袖丈22 cm Lサイズ:着丈72, 身幅55, 袖丈22 cm XLサイズ:着丈75, 身幅60, 袖丈23 cm 綿100% 6.2オンス design by ryohei kazumi
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4,756,762 Tシャツ
¥4,950
4,756,762 2023年2月26日〜3月23日の期間、代官山蔦屋で開催されたカズミの展覧会を記念して制作したTシャツ。 カズミの作品の中からのイメージを白インクでぽってりプリント。 Sサイズ:着丈66, 身幅47, 袖丈19 cm Mサイズ:着丈69, 身幅52, 袖丈20 cm Lサイズ:着丈73, 身幅55, 袖丈21 cm XLサイズ:着丈76, 身幅58, 袖丈21 cm 綿100% 7.1オンス design by ryohei kazumi
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Sounds Like ENTERTAINMENT キャップ
¥3,500
Sounds Like ENTERTAINMENT 新作の撮影のため、動物園に忍び込んだカズミとアカイシは、撮影場所を求めて彷徨い歩いていた。道中、猿、犬、そして、雉を味方につけて、目指すは鬼ヶ島。 しかし、猿が言う。鬼よりも、あいつをやっつけてーんだ。誰?と聞くと、「エンターザウータン!!」と叫んだ。カズミが「エンターザ…」と言いかけると、それを遮るように、「エンペラーさウータン!!」とアカイシが反応した。猿とアカイシは歯を剥き出しにムキキーと威嚇しながらオランウータンの檻へと向かった。あのオランウータンは皇帝なのかもしれない。犬と雉はといえば、「どこかでザイアス博士見かけた?」、「ううん、最近見かけないよね」という世間話に花を咲かせていた。カズミは激辛のザイカレーを思い出しながら、あれっ、ほうれん草のカレー、なんていうんだっけ?写ルンですを片手に、茜色に染まる空を見上げた。浅く被っていた新作のキャップがふわりと風に乗り、猿山へと飛んでいった。 design by ryohei kazumi photo by takaaki akaishi text by taichi osakana model by shogo kosakabe
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記録映画家族 Tシャツ
¥3,500
映画家族と記録映画家族 私の手元に二本の映像作品がある。 一本は一九七九年に発表された國本勘助の『映画家族』、これはVHS版のみしか存在せず、方々探しても見つからなくて、諦めかけた頃、懇意にしている古本屋の店主が連絡をくれて、筑波まで買いに行った一本である。 そもそも國本勘助を知らない読者も多いであろう、簡単に説明すると画家であった勘助は七十年代から映像制作に傾倒し、研究していたプロレタリアートを映画に持ち込むことを思い立ち、労働をテーマとした作品をいくつか残している。 『映画家族』はそんな勘助の代表作であるが、第一次大戦後の共産国を舞台に、我が子を戦地に送った親たちが、帰ることのない子を想い作った人形と共に生活していく様を、静かに切り取った映画である。サブリミナル効果として、拳を突き上げた群衆が一瞬映るシーンがあまりにも多用され、思想がダダ漏れなのが笑いを誘うが、静謐な物語展開や、妙に味のある人形デザインなど名作といっても過言ではないが、当時の評価は遅れてきた学生運動などと揶揄され、あまり評価されてこなかったようだ。ただ、最近になって、この作品は再評価され、ネット上でも高額になってきている。その契機となった作品がもう一本、今回、紹介したい作品である。 それは、『映画家族』の続編に当たる『記録映画家族』という作品である。こちらは二〇十九年に國本の実娘であるプロ毒ちゃん(本名は非公開)が美術大学の卒業制作で発表した作品である。 『記録映画家族』は、二○一二年に鬱病を発症した勘助と家族のドキュメンタリーを『映画家族』をオマージュしながら構成するという離れ技を、プロ毒ちゃんが作ったという驚くべき作品なのである。何を隠そう、私はこの『記録映画家族』を知ってから、どうしても『映画家族』が見たくなり大枚叩いて購入することになったわけだが、この作品で語られているのは鬱病によって働けなくなった勘助と、家族が辿る顛末である。プロ毒ちゃんのホームページでもこの作品は無償公開されているため、興味のある方はぜひご覧いただきたいが、まずは『記録映画家族』によせて書かれたステイトメントを転載する。ここから先はネタバレになるので注意してほしい。 父が私に買ってくれた唯一のものは大きなドールハウスだった。動物の親子五人の住まいは煉瓦造りの二階建てで、おしゃれな家具に暖炉もついていた。五歳の誕生日に父と二人で玩具屋さんに行って、ひとつだけ好きなものを選んで良いと言われて、買ってもらったのだった。美味しそうな夕食や、可愛いワンピースを着た動物たちは本当に幸せそうで、輝いていたから家に買って帰るのがなんだか申し訳なく思ったのを覚えている。 父は家に寄り付かない人で、いつだって忙しそうに働き、数ヶ月留守にすることもしばしばあったし、いつだって怒っていた。私と母は不自由な暮らしをしたことはなかったけど、この家庭が普通じゃないことは幼心にもわかった。夕食はいつだって冷たい味がしたから。 私が十七歳になる年、そんな我が家に転機が訪れる。父が鬱になった。 母にとって、父は夫という記号を割り当てられた他人でしかなかったのかもしれない。仕事を辞め、常に家にいる父と、どう意思疎通して良いのかわからないようだった。流し台の前に立ち尽くしたり、ソファで小刻みに体を揺らし続ける姿に、ただただ、困惑し、別の惑星から来た来訪者を迎えるように辿々しく、時に溜息混じりにその場をやり過ごしていた。一年たっても父の鬱は快復せず、深夜に喚き散らすと飛び出して帰って来ないこともあった。母と私は、そんな父の振る舞いに疲弊し、困惑し続けるうちに、それが日常という繰り返しによって、塗り潰されて心はすっかり摩耗した結果、当然のように慣れてしまった。 鬱は人じゃなくて、家に憑く病気なんだと、自らを責め続けた父の矛先が、母や私への暴力に変わった頃にふと気がついた。家そのものが煩っている。ここは悪い場所で逃げ出せやしない。私がいなくなったら母はどうなるんだろう。この先、あと何年。いつまで続くんだろう。そんな日々が続く中で、母が見せてきた映像に対して言った一言が、私たちを変えたのだった。 母がスマホでみせてくれた映像は自撮りの父が喚いていた。ただ、顔はデコられて可愛らしい髭面のおじさんになっていた。 「お父さんが送ってきたの。自分を撮ることにしたって」 何を言っているのかさっぱりわからなかった。 自分への嫌悪も、家族に対する暴力も、何をしても嫌になった父は、その気持ちをそのまま記録することにしたのだった。残しておいてほしいと送ってきた映像を、見せてきた母に対して何気なく「盛ってみれば」と答えていた。その時の母の顔を今も覚えている。電気が走ったような閃いた顔だった。私たちは画像編集のアプリをいくつも試して可愛い父を作っていった。父の映像は見るに耐えない罵詈雑言だったが、加工されると悲しみや憎しみが馬鹿みたいに思えてきた。犬や子供、おかしな声になった父、ロボットや女性になった父。それを見せられた父は、情けない声で「おまえらなあ」と笑っていた。 それから、父が役者となり、母が撮影し、私が編集兼鑑賞者となって我が家の鬱は消費されることとなった。こんなことあっただろうか。二人の共同作業を初めて見た気がする。私の携帯に溜まった映像に、私はタイトルをつけ、ナンバリングして保存し続けた。父の調子が悪い日は沢山、映像が送られてきた。相変わらず、父は荒れたし、辛いことも多かった。それでも私はどこかで父から送られてくる映像を心待ちにしていた。映像が百を越えた頃、私はこれを一本の作品にできないかと思うようになった。誰かに見てもらいたい。可愛いお人形や犬の顔に盛られた父を、この惨状を、可笑しく笑い飛ばして欲しかった。どこにでもある、家族のありようを知って欲しかった。 以上がステイトメントである。作品の大部分はスマホの縦位置で勘助の盛られた顔がアップになり、泣き喚き、怒鳴り散らす様がうつされている。勘助の自撮りや、母が撮影した映像がメインであるが、中盤以降はスマホの縦位置画面が複数映し出され、怒る勘助(犬)、笑う勘助(猫)、拗ねる勘助(赤ちゃん)が会話しているように見えるシーンや、十八インチサイズのテレビデオにて勘助の過去作品を上映する映像が差し込まれるなど、ドキュメンタリーとして見ている鑑賞者を置き去りにし、父、勘助の過去の仕事と現在が交感するように速度を上げていく。ラストシーンでは編集を終えた『記録映画家族』を家族全員で鑑賞するシーンが映し出され、盛られていない素面の勘助が初めて映し出され、拳を静かに上げるシーンでエンディングを迎える。荒削りだが、その疾走感が見るものを惹きつけて離さない。そもそもこの作品は、娘から父への作家としての挑戦状のように見えるのだ。 エンドロール後に、勘助がビデオカメラを家族に向けている短いカットが差し込まれている。我々は國本勘助作品をまだ楽しみにできるという期待感が鑑賞後に溢れてくるのである。 2016年に物議を醸した”映画家族”を2022年”記録映画家族”としてリリースします。 絵柄とネーミング故難航を極めた物語は6年の時を経て赤石先生の筆が再び動き始め、 ついに完成しました。 ハードですけど実は人気なんです。 オフピンク Sサイズ:着丈65, 身幅49, 袖丈19 cm Mサイズ:着丈69, 身幅52, 袖丈20 cm Lサイズ:着丈73, 身幅55, 袖丈22 cm XLサイズ:着丈77, 身幅58, 袖丈24 cm 綿100% 6.0オンス design by ryohei kazumi photo & text by takaaki akaishi
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Someone’s Collection Blues #03 Tシャツ
¥3,500
Someone’s Collection blues 強制労働の呪縛から抜け出したENTERTAINMENT店主のカズミは、彼を救ってくれた女と古都での出会いを糧に、次なる目的地を学園都市へ定めた。 その旅程、立ち寄った宿場町で商品のコンクリートオブジェを褒めちぎる老人と出会った。エッエッと笑う老人は殊更にカズミの商品群を褒め、自分はこの宿場から三里先にあるラビリンスと呼ばれる美術館の関係者だと名乗り、商品の販売をやらないかと持ちかけてきた。美術館という言葉に興味を惹かれ、二つ返事で了承すると、では行こうとカズミを車に乗せ、車中でこれから行く場所の成り立ちを教えてくれた。それは、小田一成という男から始まる。 小田一成は古くからこの地を守ってきた一族の末裔だという。責任感が強く、勤勉な一成は皆から信頼される傑物であった。22歳の春に父が死に、若くして家を継ぐとともに、結婚したが、時を同じくして始まった戦争によって戦地に出兵されてしまった。激動の時代さね。運転しながら老人は饒舌だった。何度もこの話をしたのだろう、淀みなく昔話は続く。一成の勤勉さは戦場でも変わることなく、よく助け、よく殺した。戦後、やっとの思いで国に帰るも、彼を待つ妻もお腹にいたはずの子も、生家も、帰りを待つ全ては空襲で消え失せていた。抱えきれない絶望と裏山にあった石切り場を残し、先祖から受け継いだ広大な土地を全て売払った。そして、その金を元手に、戦後の混乱を利用して莫大な富を築くと、残った石切り場を深く深く堀り、20年の歳月をかけて1000mの地下まで続く螺旋階段を作り上げた。 そろそろ到着だと老人が言い、話を途中で切り上げた。あなたが一成か。カズミが問うと老人は一成は死んだよと答えた。1000mに到達したあたりだ。きりでも良かったんじゃないのか。穴の底で己の頭を猟銃で撃ち抜き、この世から消えたよ。莫大な遺産と螺旋階段を残して。老人はエッエッと笑い、車は停止した。 石切り場の切立った岩壁の一部に、コンクリートの壁が移植されたようにひっつき、3m程の扉はくすんだモスグリーンだった。堅牢な扉を開けるとすぐに地下へ続く螺旋階段が見えた。階段は男が二人並んでも余裕がある広さで、なだらかに地下へ向かって行く。丸いランプが等間隔で階段を照らしているので考えていたよりも歩きやすかった。前をいく老人が続きを語り出す。先は長い、ゆっくり聞いてくれと言って。 一成の死後、遺言に従って穴掘りを手伝った5人に螺旋階段と遺産が相続された。相続者たちは莫大な金とこの場所を大いに持て余した。そこで5人は螺旋階段の底から横穴を掘り始め、それぞれの空間を作り出すことにした。あるものは物置に、あるものは書斎にしたりと5人は無計画に拡張を続けたが、遺産が底をつく気配はなかった。そこで5人は投資として美術品を蒐集し、穴の底に保管することにした。湿気の問題に腐心したが解決してしまえば一年中、穴の気温は一定に保たれ、その構造はセキュリティの観点からも都合が良かった。美術品の収蔵が軌道に乗り始めると、拡張速度も上がり、次第に人が集まりだした。穴掘り師を筆頭に、壊れた道具を直すために鍛冶屋が定住し、医者が必要になり、そして、料理人と続き、気づけば穴の中には小さな町ができ、家族を迎え入れるものも出始めた。拡張に伴い、地上との運び屋が生命線になり、穴の中での農耕も試みられた。一週間に一度は陽の光を浴びることが義務付けられたが、拡張につれて地上との距離が伸びると誰も外に出なくなった。そこで、紫外線ライトが各家に取り付けられた。穴の中で結婚し、子を授かるものも珍しくはなかった。ひとつの区画は幅50m、奥行き50m、高さ10mに整地され、壁は白く塗られてホワイトキューブとなった。穴掘り師たちが築いた空間に美術品が収蔵されていたが、いつ頃からか展示し、皆で鑑賞するようになった。そして穴はラビリンスとよばれるようになり、相続者たちも自らをキュレーターと名乗るようになった。キュレーターは絵画、彫刻、映像などそれぞれ専門の分野を決め、美術作品を蒐集し、展示していった。彼らにはもともと審美眼などなかったが、ありあまる富はいつでも彼らの味方となった。老人の話は終わらない。底にたどり着くまで語ることはいくらでもあるのだ。深淵に引きずり込まれてしまうのではないかと錯覚し、肌が粟立つも、足は先へ先へと勝手に降りていった。 やっとの思いで螺旋階段の底に着いたころにはカズミの身体は悲鳴をあげていた。横穴を進み、いくつかの小部屋を抜けたところで、視界がひらけ、巨大な空間に到達した。老人は美味そうに水を飲み、カズミにも勧めてくれた。そこは話に聞いたホワイトキューブの展示室だった。煌煌と照らされた空間は充分にスペースを取って、絵画が一点一点展示されている。そして壁にかけられた作品に呼応するように金属や石材の彫刻作品が配置されていた。巨大な稼働壁が迷路を形成し、作品同士が鑑賞の妨げにならないよう最善が尽くされて区切られていた。ここは始まりの展示室で、最初期の収蔵品が鑑賞できる。お粗末なキュレーションだがねと、老人が言い、こっちだ。と感心仕切っていたカズミに催促する。巨大な稼働壁を抜けた奥、積み上がったブラウン管の作品の周りに、人集りができており、荷台引きの馬の姿があった。あれは運び屋たちさ。いまじゃ先端はここから数百キロは先になっている。向こうでは町ごと移動しながら掘り進めていてね、中では農耕も行われてるが、足りないものは沢山ある。美術品もそうだが、画材なんかも必要でね。ラビリンスのアーティストも結構な数になったが、外の芸術を見ることは刺激になる。運び屋は生命線なのさ。いまは3つの旅団に分かれて中継しながら奥まで外の世界の資材を運び、中からは岩盤が運び出されている。全盛期は旅団ももっとたくさんあったのだがね。今は拡張の速度もかなり落ちた。どうするかい、これから出発する。芸術を鑑賞する旅さ。飽きはしないだろう。そして、先端にたどり着けば君は晴れてラビリンスのミュージアムショップオーナーだ。地上には帰れないがね。この美術館は未だに設営中さ、一成が始めた時から数えれば70年近くになるが、いまだ終わっていない。穴掘り師たちが整地した空間を、インストーラーたちはキュレーターの指示で飽きることなく、いつまでも取っ替え引っ替えやってる。勘の良さそうな君ならもう気づいているだろう。私もキュレーターのひとりだよ、二代目だがね。さあ、どうする。老人はカズミに手を差し伸べた。大きな手だ、そう思った。 はたして、自分の選択は正しかったのだろうか。壁にかけられた絵画を眺めながら逡巡する。どんな選択も後悔は残る。ならば、より自由に繋がる選択をしよう。後悔を鼓舞する無意味な独り言は反響して消えていった。店を持つ夢を今し方、手放したところだ。誰もいなくなった巨大なホワイトキューブで、作品を独り占めしながら長い時間を過ごした。そして、気に入った作品はキャプションまで丁寧に描いて記録した。描いていて直ぐに気がついたのだが、作品のキャプションに記載された作家名は全て上から殴り書きで消されていた。誰かの悪戯だろうか、答えを知るだろう老人は、運び屋の旅団と共に旅立ってしまった。謎がまたひとつ増えたが、もう気にならなかった。独り残ったカズミは長い長い螺旋階段を登りだした。別れ際に老人にした質問を思い出す。この展覧会にタイトルはあるのかと。エッエッと笑い、老人は長らく『無題』だったがね、いいのを思いついたよ『人々を照らす明かり』はどうかねと答えた。 レギュラーシリーズと化したキャプションTシャツ第三弾です。 今回は和物でいかせてもらいます。 フロント右胸のポケット上に作品のキャプション、作家名は殴り書き刺繍で、1点1点消してます。前回より少しフォントを小さく、マイナーチェンジをば。 どうぞよろしくお願いいたします。 caption - Painting ブラック Sサイズ:着丈65, 身幅47.5, 袖丈18.5 cm, 6.2オンス Mサイズ:着丈68, 身幅50, 袖丈19.5 cm, 6.2オンス Lサイズ:着丈74, 身幅55, 袖丈22 cm, 5.6オンス XLサイズ:着丈78, 身幅58, 袖丈24 cm, 5.6オンス 綿100% ★S, Mサイズの使用しているTシャツのボディとL, X Lサイズのボディは異なっています。あらかじめご了承ください。 caption - Textiles ネイビー Sサイズ:着丈65, 身幅47.5, 袖丈18.5 cm Mサイズ:着丈68, 身幅50, 袖丈19.5 cm Lサイズ:着丈71, 身幅52.5, 袖丈20.5 cm XLサイズ:着丈74, 身幅55, 袖丈21.5 cm 綿100% 6.2オンス design by Ryohei Kazumi photo & text by Takaaki Akaishi
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Brand New Hell パーカー
¥5,500
Brand New Hell 世界中の人々を楽しく元気にする会社ENTERTAINMENTの業績が伸び悩んでいる。それは、アカイシの気合いが足りないからだというカズミ。山に登れば精神も身体も整い、自ずから活力が湧いてくると信じるカズミに、アカイシは無理やり登山に連れて行かれる。 アカイシはいやいや歩いているから足取りも重い。軽快に進むカズミと途中ではぐれ、遭難してしまったアカイシは、ある集落へ辿り着く。しかしそれは集落というよりも秩序が無く、混沌とした異様な雰囲気の場所だった。 なんとなく地獄とでも表現したくなるような、立ち入る事が憚られる雰囲気に満ちていた。 日が暮れて不安も膨らみ、疲れ果てていたアカイシには、そんな異様な場所であっても立ち入らないという選択肢はなかった。華やかに明かりが灯るが、なにもかもが虚ろで薄っぺらい地獄といった感じだった。恐る恐る、そんな地獄の中を歩き進む。辺りを行きかう着飾った鬼の様な怪物や、それに従う人間達の姿が見える。その全てからは、まったく覇気が感じられない。そしてアカイシの存在など誰も気に留めない。もしかしたら、彼らにアカイシは見えていないのかもしれない。そんな事を思うからか、少しづつ恐れるという気持ちは薄れていった。 歩いていくと、多くの人間が無気力に横たわる一角が目に入ってきた。疲れていたアカイシは彼らと一緒になって無気力にそこに横たわった。そして、なんやかんやあって、カズミは山中の大きな松の木の根元でアカイシを発見した。アカイシは虚ろな目で宙を見つめて立っていた。カズミに全く気が付かない。カズミはアカイシに詰め寄り肩に手を置き、無事に発見する事が出来た事を、心の底から喜び安堵した。 そして、遭難して何処にいたのか尋ねた。アカイシが遭難していた5日間、カズミは地元青年団の4人と毎日、山に入り日の出から日の入りまで捜索していたのだ。アカイシが立っている松の木の前も何度も通っていた。 アカイシはゆっくりと語りだした。この世界は多層的に構成されている。カズミが現実だと思っている時間と空間は、世界のささやかな断片でしかない。地獄は存在している。その地獄は恐れるべき場所ではない。淡々と語るアカイシの眼をのぞき込むと、とても静かな冬の夜空のようだった。 とりあえず、青年団の4人とカズミは、アカイシを連れて下山し、近くの小さな食堂に入った。温かいお茶が出てきた。それを不思議そうに見つめ、持ち上げて、口に運ぶアカイシ。お茶を飲み干すと、すっかり眼の中の夜は、朝の太陽のような光を湛えていた。遭難中の虚ろな記憶は、起床した時に覚えていない夢のように霧散しようとしていた。 数日後カズミは、アカイシが見た地獄を描かせようとサツカを呼び出した。サツカは何も知らされず、待ち合わせ場所に指定されたENTERTAINMENT近くの喫茶店に向かった。待ち合わせ時間より30分ほど早く到着した。店内にお客さんは数人いるものの、みんな小さな光る板をのぞき込んでいた。サツカはホットコーヒーを頼んで空いているテーブル席に座った。今日はカズミから、どんな話をされるのかなと考えた。そういえば最近、ENTERTAINMENTではインドネシアに実店舗を出店する計画が進行しているらしい。そんな噂を耳にしていた。そして、インドネシアでは首都をジャカルタから、なんとかという、たしか5文字くらいの、ヌサントラ?とかいう所に移転する計画が持ち上がっているらしい。インドネシアへの出店についての話かなと思いを巡らせた。そんな風にぼんやりしていると、予定の5分前にカズミとアカイシが現れた。 なんだか、カズミはいつもより疲れている。アカイシはいつもより活力に満ちている。2人もホットコーヒーを注文し席についた。 カズミから、アカイシが山で遭難した事、5日間の捜索のすえ松の木の根元でアカイシを発見した事、捜索に協力してくれた地元青年団のサカイがENTERTAINMENTに入社した事などを聞かされた。 そして、アカイシから、遭難中に出会った地獄の話を聞かされた。それはいわゆる地獄の話というよりは、次元を異にする時空間への旅行話を聞かされているような印象を受けた。アカイシには、カメラで写真を撮るように、見たモノを脳裏に焼き付け、鮮明に記憶として留めるという特殊な能力がある。だから彼に何かの説明を求めると、それが見てきたものであった場合、彼の口からは、とんでもなく詳細な細部が語られる事がある。今回は、いつもよりはかなり抽象的ではあるものの、とても作り話とは思えないほどの真実味を所々に感じた。サツカは自分の足元がどんどん傾いて、上も下も、右も左も、前も後ろも無くなっていくような感覚に襲われた。この世界には、まだまだ至る所に不思議が潜んでいる。多くの人間は科学の力をもってすれば、全ての事象に因果関係を見つける事が可能であると信じ込んでいる。しかし、それがいかに危うく、短絡的で稚拙な考え方であるか、アカイシの話を聞いてしまった後には、おのずからそう感じざるを得なくなってしまっていた。 今聞いた地獄を描いてもらいたい。そうカズミからサツカは依頼された。3人は3時間半以上も喫茶店で話していたが、ENTERTAINMENTインドネシア進出の話は全く出なかった。 家に帰ったサツカは、アカイシの語った言葉を思い出しながら紙に向かった。ペンを握る。線が紙の上を走り出す。サツカは、数年前ナガハタと合作で描いた『三極才の子供たち』という漫画の事を思い出していた。一方通行ではない時間と、超多次元空間に生きる登場人物たちが、地球の噂話をする、というお話しだった。その漫画はコピー機で印刷し、ホッチキスで製本して少部数を作っただけだった。今となっては、まったく手に入らない幻の漫画だ。なぜだかそのお話しと、アカイシの話はリンクする部分が多くあるように感じられた。サツカには、時間と空間を超越した世界を妄想するという趣向性がある。アカイシの話をスルッと飲み込めたもの、きっとそんな気質があったからだ。カズミはそれを知っていて、サツカにアカイシの見た地獄を描かせようと思ったのだろう。 3日後、地獄を描き上げてENTERTAINMENTに向かった。カズミとアカイシに見せた。雰囲気は出ている、と呟いたアカイシ。そして、日に日にあの時の脳裏に焼き付けた映像は薄くなっていっている。でもこの絵を見ると、なんとなく思い出すことが出来そうだ。 それを聞くと、カズミはその絵をENTERTAINMENTの商品にプリントして販売しようと提案した。結果、[ 8.0oz ヘビーブレンドプルオーバーパーカー ]の正面に大きめにプリントする事になった。 この世界が、まだまだ不思議で満ち溢れている事をこの地獄の絵が物語る。世界中の人々を楽しく元気にする会社ENTERTAINMENTの業績を、この商品が押し上げるかは正直わからない。しかし、この地獄の絵がプリントされたパーカーが、この世界に誕生した事には、時間と空間に縛られていない誰かの大きく強い意図を、なんとなく感じる。 全ての話を聞いたサカイはそう思った。ここ最近、アカイシはカズミとサカイを誘って山に登るようになった。 S:着丈63cm, 身幅51.5cm, 袖丈59cm M:着丈65cm ,身幅57cm, 袖丈59cm L:着丈68cm 身幅61cm, 袖丈59cm XL:着丈71cm 身幅65.5cm, 袖丈59cm コットン50% ポリエステル50% 裏起毛とコットン・ポリエステルの混紡 8.0オンス design & model by Masahiro Satsuka text by haruhiko nagiri photo by takaaki akaishi
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ENTERTAINMENT logo Tシャツ
¥3,500
ENTERTAINMENT 天然水の訪問販売に失敗したマツオは、逃げるように訪れた西海岸の外れで、 仏壇をインテリアとして 販売していたカズミに出会う。 その無謀な生き方に惹かれたマツオはカズミにあるアイデアを持ちかける。先の見えない 生き方をしてきた二人が選びとったラストリゾート。 それは妄想のミュージアムを作り出すことだった。 呼吸から排便に至るまで、行動の一切を同調させた生活を続けることで、二人は妄想の共有化に成功し、妄想のミュージアムは二人の世界に確かに存在する空間となった。 そしてミュージアムに存在するギフトショップだけを現実との接点として具現化し、 二人が愛した作品を販売することにした。 二人はギフトショップを高らかに喧伝し、妄想は強化されていった。二人の妄想にあてられて異能の集団が形成されつつあることに気づいた時、エンターテイメントという名の劇薬は、 彼らを取巻く空間そのものにキマり始めていた。 ENTERTAINMENTロゴTシャツです。 これでもかと言わんばかりに表面と裏面にプリントしてやりました。 ブラック、グレー、アッシュに加えてネイビーを追加しました。 Sサイズ:着丈66, 身幅49, 袖丈19 cm Mサイズ:着丈70, 身幅52, 袖丈20 cm Lサイズ:着丈74, 身幅55, 袖丈22 cm XLサイズ:着丈74, 身幅55, 袖丈21.5 cm Cotton 100% , 5.6 oz ★ネイビーのみサイズが異なります。 Sサイズ:着丈65, 身幅47.5, 袖丈18.5 cm Mサイズ:着丈68, 身幅50, 袖丈19.5 cm Lサイズ:着丈71, 身幅52.5, 袖丈20.5 cm XLサイズ:着丈74, 身幅55, 袖丈21.5 cm Cotton 100% , 6.2 oz design by ryohei kazumi text takaaki akaishi
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ENTERTAINMENT ロゴ トートバッグ 2
¥2,000
ENTERTAINMENT ロゴ トートバッグ 2 海外のアートフェアよく見る絶妙なサイズ感のトートバッグを ついにENTERTAINMENTでも作ることに成功しました。 鹿の糞、ひいおばあちゃん、大型客船、嵐山、濡れた雑巾などは 入れないようご注意ください。 横 37cm × 縦 41.5 cm, 持ち手 約 65.5 cm 綿100% design by ryohei kazumi
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複製芸術 パーカー
¥5,500
複製芸術 ENTERTAINMENTの方向性を決定づけたこの一品は、ブランドの創始者のひとりカズミのバックボーンである版画への敬意に溢れています。 カズミは、度を超えたヴィーガニズムを信奉する教職者の家庭に生を受けます。両親は思想を押し付けることはありませんでしたが、多感な青年は両親の気遣いを歪みとして受け取り、実家を飛び出します。いくつもの仕事を経験し、家を出て2年。その冬は蕎麦屋の出前によって何とか夜露を凌いでいました。終わることのない出前と積み上がるせいろは怒髪天を突く彼の心そのものでした。しかし、年の瀬の出前中、不注意からマンホールに落下、両腕骨折の重傷を負います。失意の病室で偶然見た棟方志功のドキュメンタリーに釘付けになり、これがきっかけとなって両親と和解。指示体に顔を擦り付け舐めながら描くというスタイルでその画業をスタートします。しかし、このスタイルは長くは続きませんでした。舌や喉を酷使しすぎたため扁桃腺を悪くしたのです。二度目の挫折を忘れようと訪れたロンドンでウォーホールのエンパイアに棟方を超える衝撃を受けます。それは8時間その場を動けないほどでした。この時のことを彼はこう回顧します。 「エンパイアは積み上がった蕎麦のせいろそのものだった。いつ崩れ去るか気が気じゃなくてね、おかしいだろ、その場を動けなかったのさ。でも、思ったんだよ、そんなこと俺がやる必要ないじゃないかって、全てを俺がやらなくていいのさ」 こうして自身を蝕んでいた技巧至上主義から解放され、彼の身体はテクノロジーとの付き合い方を模索し始めます。『複製芸術』はそんなカズミのテクノロジーへの敬意を表した一品なのです。 2021年のカラーリングはグレーXパープルインクです!! Sサイズ:着丈64, 身幅50, 袖丈61 cm Mサイズ:着丈67, 身幅53, 袖丈62 cm Lサイズ:着丈70, 身幅56, 袖丈63 cm XLサイズ:着丈73, 身幅59, 袖丈64 cm 綿100% 裏起毛 12.4オンス design by ryohei kazumi photo & text by takaaki akaishi model by shogo kosakabe
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(Re: ) 自動書記 パーカー
¥6,500
(Re: ) 自動書記 ENTERTAINMENT創設者のひとりであるマツオの身に起きたある出来事が発端となっています。 妻と幼子の為、昼夜を問わず働き詰めの生活を送っていたマツオは、新規事業として始めたホワイトボードの訪問販売中に突然倒れ、病院に救急搬送されます。病室で目覚めた時、この事業そのものの記憶が欠落していました。残された大量のホワイトボードに自身を重ねたマツオは、首からホワイトボードさげ、自身の行動一切を書き留める生活を始めます。 最初のうちこそ苦労していましたが、ひと月も経つ頃にはその生活にも慣れ、意識せず自分の行動を書き留められるようになっていました。絶えず動き続ける右手は、彼の意志を越えて動き続けます。今この瞬間も彼の人生をB3ホワイトボードに記録しているのです。この驚異的な現象を新作のヒントに「自動書記」が完成しました。 マツオは言います。 「この右手は俺の心とは分たれたもうひとつの人格になった。この先どれだけの時間を記録していくのだろう。でもおもしろいことに24時になると一日の記録を全て消すんだよ。また綺麗さっぱりホワイトボードに次の一日が書かれるんだ。」 Sサイズ:着丈64, 身幅50, 袖丈61 cm Mサイズ:着丈67, 身幅53, 袖丈62 cm Lサイズ:着丈70, 身幅56, 袖丈63 cm XLサイズ:着丈73, 身幅59, 袖丈64 cm 綿100% 裏起毛 12.4オンス design by ryohei kazumi photo & text by takaaki akaishi
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東洋残響時間 パーカー
¥5,500
東洋残響時間 東洋幾児は格闘家である。 死亡遊戯のブルース・リーに感銘を受け、ジークンドーの通信教育を始め、友人の家で遊んだキングオブファイターズ98のキム・カッファンが繰り出す超必殺技「鳳凰脚」に入れ込み、テコンドーを習うなど、エンタテイメントからの影響そのままに多様な流派を横断し、貪欲に勝利を求めた。 デビュー戦では、試合開始とともに、手に塗りつけてあったカボス汁で相手を怯ませ、首元に手刀を浴びせ、一撃でノックダウンK Oを奪っている。この行為は反則となり、失格となるが、その鮮やかな一撃と会場が水を打ったようになったことを指して、誰が言い始めたか「東洋残響時間」と呼ばれ、東洋の通り名となった。 デビュー戦以降、秒殺と手刀に拘り、1ラウンドで勝敗が決まらない場合、2ラウンド以降は無気力になる戦い方をする始末であった。 通算成績は7戦3勝4敗、その大きすぎる通り名を轟かせるには至らなかったが、 鮮烈なデビュー戦は未だに語り草となっている。 S:着丈63cm, 身幅51.5cm, 袖丈59cm M:着丈65cm ,身幅57cm, 袖丈59cm L:着丈68cm 身幅61cm, 袖丈59cm XL:着丈71cm 身幅65.5cm, 袖丈59cm コットン50% ポリエステル50% 裏起毛とコットン・ポリエステルの混紡 8.0オンス design by ryohei kazumi photo & text by takaaki akaishi
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(Re: ) 展覧会 Tシャツ
¥3,500
(Re: ) 展覧会 近年、飽和する地域アートの裏で、日本には大小様々なトリックアート美術館が点在する歴史があります。このトリックアート美術館を巡る旅にでたカズミは、トリックアートが奨励している写真撮影を一切せず、ドローイングによってトリックアートに迫ろうとしました。そんな背景を持つ『展覧会』は、カズミが美術館に入り浸り描き続けた、莫大な量のドローイングから記念碑的一点をセレクトしています。カズミのスケッチブックには旅の最中に書かれたこんな一節があります。 「トリックアート美術館は、従来の美術館の概念を打破し、世界に通用する全く新しい文化であり、未来型美術館として大衆の絶対的支持を得うるものとして出発した、今はもう錆び付いてしまったかもしれない、そんな理念があった。」 2015年にリリースした”展覧会”を少々デザインに手を加え、2020年にふさわしいボディで リリースします。 程よく色落ちしたブラックボディにピンクとオレンジインクでプリント。 勇気を出して決めた、ネオンレッドオレンジボディに負けじと黒インクでキメました。 ENTERTAINMENTの初期、”複製芸術”の陰でひっそり人気があったこのデザイン。 物語も含め、まだまだ現役の”展覧会”をどうぞよろしくお願いします。 ネオンレッドオレンジ, ブラック/ピンク, ブラック/オレンジ Sサイズ:着丈68, 身幅45, 袖丈18 cm Mサイズ:着丈71, 身幅50, 袖丈20 cm Lサイズ:着丈75, 身幅54, 袖丈22 cm XLサイズ:着丈78, 身幅58, 袖丈23 cm 綿100% 6.1オンス design by ryohei kazumi photo & text by takaaki akaishi ★後染め加工がされたボディを使用している為、1~2cmほどサイズが違う場合がございます。 また、前後の長さの違い、染めによる生地の縮みにより生地が真っ直ぐでない場合などもございます。ご理解の上ご購入くださいませ。 ★初回ご着用前に他のものと分けて洗濯してください。顔料染め製品で用いている染色方法の特質上、剥がれ落ちた顔料が製品の表面に残ることがあり、 白物、淡色物の衣類と一緒に洗濯すると色移りすることがありますので、同系色のものと一緒に洗濯してください。 冷水で洗濯していただくと色移りが多少防げます。色の変化は製品染め加工の特質によるものです。
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制作マニア (MAD MAKING MANIAX) Tシャツ
¥3,500
制作マニア (MAD MAKING MANIAX) 低空を滑るような速度で、散れ焦れの雲が流れていく。高層の白雲と違い、灰に濁る雲が、寄り集まって雲翳を作っていく。等間隔に光る旅客機の白色閃光灯が、暗くなりつつある空から逃げるように瞬いている。間も無く一雨来るだろう、アトリエにひとつしかない、はめ殺しの大きな窓から空を眺めて、ヒグチ教授は大きな溜息をつく。 ヒグチは彫刻家である。そして、大学で教鞭をとっている。様々な素材を相手に輪郭を刻み続けてきた自分が、まさか教職という道に進むことになるとは、夢にも思っていなかった。きっかけは代役として頼まれて、大学で一コマ授業を請け負ったことだった。評判が良かったのか、席が空いていたのか。運が良かったとヒグチは思っているが、あれよあれよという間に、講師から常勤に、そして、教授へと駆け上がっていった。元々、売れない彫刻家であった為、大学からの給金は有難く、その殆どを材料と道具に費やすことが出来、制作意欲があがることで、指導にも熱が入った。的確な指摘と知識量で、学生からの評判も上々だった。 ヒグチの教え子たちは、大企業への就職や、起業、中には気鋭の作家としてデビューするものもいた。彼らとは卒業後も良好な関係を保ち、ヒグチを師と仰ぐものも少なくなかった。ただ、誰一人としてヒグチの作品を見たものはいなかった。世に出回っているヒグチの作品といえば、若かりし頃に発表した数点のみで、新作について問うても「お前たちが俺の作品だ」と、茶化すように、はぐらかすばかりであった。脚光をあびる教え子たちの裏で、ヒグチは常に良き先生でしかなく、芸術を作り出す先達としての彼の姿を見ることはなかった。確かな腕に知識、それらを持ち合わせたヒグチの新作を期待するも、それが叶わないことは皆が知っていた。 窓の向こうは一面が灰色にかぶり、雨が天井をゆっくりと叩き始めた。旅客機の閃光はもう見えなかった。五十坪の空間はヒグチの聖域で、誰も入ったことのないアトリエには、誰も見たことのない作品が、所狭しと保存してある。木彫やブロンズ、テラコッタと立体作品の素材は多岐に及ぶ。ヒグチは作品を作らないのではなく、作品を発表してこなかっただけだった。思い描いた形を創造することは苦ではなく、いとも簡単に出来た。一木に鑿をいれたら、木が望んだ形を作り出せた。そんな当たり前はヒグチにとって没頭する、情熱を傾ける理由にはならなかった。ただ、出来る。それだけのことであって、作品が完成した時の高揚感や、閃いたアイデアに一喜一憂する。そんな、心の揺さ振られる思いをしたことはなく、だからこそ、生きるための意味に制作は当てはまらなかった。作ることは呼吸と変わらない、当然の行為であり、その当然を誰かに見せて、評価を得ることに一体どんな意義があるのだろうか、彼には皆目見当もつかなかった。 アトリエには借りた当初から、備え付けの大型の本棚があった。作ることの意味を模索する為に収集した、著名な芸術家たちの画集で、本棚はみっしりと埋まっている。彼らの画集には、作ることの喜びと、生み出すための苦心が、作品とその変遷に溢れていた。一方、自分はどうだろう。なんでも作り出せた自分の作品は、どこか、存在感が欠けて見える。自分には知らない感情である、飽くことのない表現することへの乾きを彼らは持っており、それが、ヒグチにはぽっかりと欠落していた。 ヒグチはおもむろに立ち上がり、作業棚にある刃広斧を見つめる。小さな耳鳴りが聞こえる、そんな気がして。ゆったりとした動作で斧を掴むと、ごくごく自然な動作で本棚に一撃を振るった。画集は裂かれ、本棚はズタズタに割れていく。斧に食い込んだ画集を引き千切り、飛び散る汗で緩む手元を握りこんで、一心不乱に繰り返し、斧を振るい続けた。打ち付ける雨音が、荒い呼吸を覆い隠す。外は大雨になっていた。 本棚は完全に壊され、バラバラになった画集は一面に散乱している。自分の凶行を眺めていると、ふと足元に違和感を感じた。散乱する本を掻き分けると、本棚の下に扉を見つけた。床下収納だろうか。頑強な扉がコンクリートの床を縁取っていた。 観音開きの扉を片方引き上げると、ただの収納ではなく、中は暗闇が広がっていた。目を凝らしてもまるで底が窺い知れない。試しに、手元の本を落としてみたところ、たっぷりと沈黙をおいてから微かに応えが返ってきた。穴底はかなり深いだろう。そこで、瓦礫の山となった本棚と画集を、穴の中へ次々に落としていく。落としたゴミが、遠くの底で散乱していく音が反響してくる。凶行の瓦礫を、全て穴に落としてしまうと、深い溜息が漏れた。目線の先で、小さなブロンズの作品と目が合った。そこから先は当然の成り行きだった。 作品でひしめき合っていたアトリエは、今や、寂しく伽藍としていた。最後に残った木彫の裸婦を穴へ投じる。裸婦像は瞬く間に闇に飲まれていき、やがて、乾いた音が返ってくる。全てを投げ入れるとヒグチの心は晴れやかになっていた。あれだけあった作品が、全て闇に飲まれてしまうと、アトリエは自分の吐息でさえ響くような静謐さを湛えていた。そういえば、土砂降りだった雨もあがっている。自分の行いに躊躇はなかった。ヒグチは満足すると全身の力を抜き、地面を蹴って、するりと穴の底へ落ちていった。 「……ルドナヤプリスタニでは東の風、風力2、晴れ、01ヘクトパスカル……」 低音の男の声が、知らない土地の現況を伝えている。並べられた作品の輪郭が淡いで見える。三人の学生の講評は退屈極まりなかった。彼らの語る言葉は、将来の不安や、制作における悩みで溢れていた。なぜ、こんな簡単なことが出来ないのか。素材を見れば、簡単にわかることがなぜ。それでいて、彼らの作品からはヒグチには無い、青臭く咽るほどの情熱がある。それを、まざまざと見せつけられて、毎度、困惑したのだった。……これはいつの記憶だろう。そう思った瞬間、学生たちは空間に溶けて、輪郭がぼやけ出し、混じり合って笑いだした。続いて、ジリジリとノイズの中から、気象の数字を読み上げる声がフェードインしてくる。耳を塞ごうとするも、手が動かない。何事かと声をあげようにも上手く喋れなかった。そもそも、どうやって喋るのだろう、呼吸は鼻か口か、どちらからやればいいのか、わからない、どうすればいいのだろう。 「……ウラジオストクでは南南西の風、風力3……」 足音が近づいてくる。重たい瞼をこじ開けようとするも焦点が合わず、滲んだ光が泳いで見える。 「気がつきましたか」 何処からか声がする。小さな呻き後をあげて、ヒグチは起き上がろうとする。 「混乱もするでしょうが、まだ、動いてはいけません。あなたは長いこと眠っていたのです。今は休むのが最善。あとでゆっくり教えます」 声の主に覚えはなかった。全身に力は入らないが、どうやらあの世ではなさそうだった。 「あなたは落ちてきました。上から」 女はそう答えると珈琲を啜った。 「ここは迷宮と呼ばれる場所。大昔、一人の男が掘り始めたらしいのですが、今ではあっちこっちに繋がっています。私はここに住んでいまして」 女は石膏像のような端麗な顔つきで、燦爛とした柄のヒジャーブが、浅黒い肌と美しいコントラストを形成している。 「私はダイモ。美術品と共に、あなたは私の仕事部屋へ落ちて来ました。あれこれ詮索する気はありませんが、気が向いたら教えて貰えると嬉しいですね」 「申し訳ない」 ヒグチの身体は包帯でぐるぐる巻きになっており、特に右手は僅かな力も入らない。それでもこうして喋れるということは、ダイモの処置が良かったのだろう。自分のアトリエの地下に迷宮なる空間が広がっていて、若い女が生活しているとは。巫山戯た話だ。だが、自分はまだ生きている。穴の底へ落ちていく感覚が蘇り、手に汗がにじむ。どこまで話すべきだろうか、自分の行いを。口を噤むヒグチを、隈取りされた瞳のダイモが見つめている。 「そうそう、治療にお金を請求するつもりはありません、面白いものが手に入りましたから。感謝くらいはしてほしいですけど」 人を寄せ付けない完成された相貌が綻ぶ。 「あなたと共に落ちてきた美術品、あれはどれも壊れてしまっていますが、確かな仕事が施されていました。あれだけの量が、全くもって勿体無い」 ダイモの声は靄がかかっているように頭に入ってこない。穴の底を見つけたとき、何かが変わっていく予感があった。未知なるものの発見と期待。しかし、穴の底には誰かの生活があった。未知に対する驚きは珈琲の匂いに塗り替えられていく。穴の底で生活している人間がいて、剰え、その人間の仕事部屋に身を投げたとは。 そんなヒグチの心を知ってか知らずか、ダイモは鼻を鳴らすと、面白いものを見せてあげると言い、肩を貸してくれた。ダイモはヒグチよりも背が高く、歩く速度も速いので、半ば引きずられるような格好になった。軋む身体に遠慮しない女につられ、部屋の隅にある小道を進んでいく。 「あのラジオ、気象予報か」豪華なラジカセがキャビネットに置かれていた。 「気象通報ですね。ここまで電波を拾うのは骨の折れる作業でした。お気に入りです。ここには昼夜も天気の概念もないですから、自分の居場所を見失わないために聴いているのです」 「おかげで悪夢を見たよ。君はひとりでここにいるのか」 「そう。このエリアは私だけ。でも何人かいます」 「広い空間なのか」 「そうですね、それは、自分で見て知るのがいいと思います。さあ」 そこは、一際広い空間だった。無数のろうそくやランタンが灯され、白壁に光が反射することで明るさが保たれている。たっぷりとした空間にひんやりとした空気。時間が止まっているようだった。 「ここは最初の部屋と呼ばれています。この先に地上へ向かう階段があります。とは言え、その身体では、当分は地上に上がるのは難しいでしょう。それよりも見て下さい」 ダイモの指差す先には、夥しい数の作品の亡骸が転がっていた。 「私の仕事部屋からここまで運んだのです。これも骨の折れる作業でしたね」 そういってダイモがウインクする。 「あなたはこの彫刻たちのおかげで助かったのです。どういう理由で落下の衝撃がやわらいだのか、山のように積み重なって緩衝材になったのでしょう。あなたは助けられたけど、この作品たちはどこまでも割れていて、私では手の施しようがありません。修復士も匙を投げるでしょうね。仕事部屋も滅茶苦茶なので、私はそこの机で仕事をします。あなたは命の恩人たちにお礼でも言ってみてはどうですか」 そう言って、ダイモは書き仕事を始めた。 冷たい床に作品だったものが等間隔に並べられている。ヒグチは足元に転がっている木彫の左足を拾い、松葉杖にして歩き出す。バラバラになった作品たちを眺めると、ダイモの言った通り、どれもこれも壊れており、原型を留めていないものも少なくない。ここには自分の数十年に渡る変遷が、惨憺たる有様で開陳されている。暫く、立ち竦み眺め続けた。 ヒグチの作品は人物が大半を占めていたが、見れば、どんなに小さな欠片でも、それが、どの作品であるか手に取るようにわかった。よろめきながら楠木の腕を拾い上げ、撫でてみる。分かたれた先はすぐに見つけることができた。二つを組み合わせ、ぐるりと入った亀裂をなぞる。 「やはりあなたの作品でしたか」 後ろからヒグチの様子を眺めていたダイモが言う。 「なぜかは聞かないでおきます。しかし、これだけは言わせて貰いたい。作られたモノたちに申し訳ないと思わないのですか。さあ、もう一度、作りなさい。ここまで落ちて来て、あまつさえ生き残ったのだから、ここにいる意味を、務めを果たしなさい。それに、私の仕事を滞らせたけじめも付けて貰いたいわ」 そのとき初めて、快活でよく通る声だと思った。慇懃無礼な話ぶりだったダイモの口調が、敬語を取り去って感情が垣間見えた。彼女は作品たちを想い、本気で怒っているのだろう。その提案は命令に近かったが悪い気はしなかった。 夥しい数の指が散乱している。裂けた胸や、頭部、どれを見ても制作時の想いが想起された。そういえば、完成した作品にこんなにも触れたりすることはなかった。そのまま、 食事も睡眠も取らず、一心不乱にヒグチは分かたれた部分を集め、ひとつひとつ形を探し続けた。右手はまだ思うように動かない。しかし、体は勝手に動いた。 「……遙か東の北緯33度、東経160度には、1220ヘクトパスカルの高気圧があって、東北東へ二十キロで移動しています」 豪華なラジオが空の行き先を伝えている。 軋む身体を奮い立たせる。何をどうすればいいのか、それだけはわかっていた。 ブラック, アッシュホワイト Sサイズ:着丈65, 身幅47.5, 袖丈18.5 cm Mサイズ:着丈68, 身幅50, 袖丈19.5 cm Lサイズ:着丈71, 身幅52.5, 袖丈20.5 cm 綿100% 6.2オンス design by ryohei kazumi photo & text by takaaki akaishi
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Someone’s Collection Blues #02 Tシャツ
¥3,500
Someone’s Collection blues 強制労働の呪縛から抜け出したENTERTAINMENT店主のカズミは、彼を救ってくれた女と古都での出会いを糧に、次なる目的地を学園都市へ定めた。 その旅程、立ち寄った宿場町で商品のコンクリートオブジェを褒めちぎる老人と出会った。エッエッと笑う老人は殊更にカズミの商品群を褒め、自分はこの宿場から三里先にあるラビリンスと呼ばれる美術館の関係者だと名乗り、商品の販売をやらないかと持ちかけてきた。美術館という言葉に興味を惹かれ、二つ返事で了承すると、では行こうとカズミを車に乗せ、車中でこれから行く場所の成り立ちを教えてくれた。それは、小田一成という男から始まる。 小田一成は古くからこの地を守ってきた一族の末裔だという。責任感が強く、勤勉な一成は皆から信頼される傑物であった。22歳の春に父が死に、若くして家を継ぐとともに、結婚したが、時を同じくして始まった戦争によって戦地に出兵されてしまった。激動の時代さね。運転しながら老人は饒舌だった。何度もこの話をしたのだろう、淀みなく昔話は続く。一成の勤勉さは戦場でも変わることなく、よく助け、よく殺した。戦後、やっとの思いで国に帰るも、彼を待つ妻もお腹にいたはずの子も、生家も、帰りを待つ全ては空襲で消え失せていた。抱えきれない絶望と裏山にあった石切り場を残し、先祖から受け継いだ広大な土地を全て売払った。そして、その金を元手に、戦後の混乱を利用して莫大な富を築くと、残った石切り場を深く深く堀り、20年の歳月をかけて1000mの地下まで続く螺旋階段を作り上げた。 そろそろ到着だと老人が言い、話を途中で切り上げた。あなたが一成か。カズミが問うと老人は一成は死んだよと答えた。1000mに到達したあたりだ。きりでも良かったんじゃないのか。穴の底で己の頭を猟銃で撃ち抜き、この世から消えたよ。莫大な遺産と螺旋階段を残して。老人はエッエッと笑い、車は停止した。 石切り場の切立った岩壁の一部に、コンクリートの壁が移植されたようにひっつき、3m程の扉はくすんだモスグリーンだった。堅牢な扉を開けるとすぐに地下へ続く螺旋階段が見えた。階段は男が二人並んでも余裕がある広さで、なだらかに地下へ向かって行く。丸いランプが等間隔で階段を照らしているので考えていたよりも歩きやすかった。前をいく老人が続きを語り出す。先は長い、ゆっくり聞いてくれと言って。 一成の死後、遺言に従って穴掘りを手伝った5人に螺旋階段と遺産が相続された。相続者たちは莫大な金とこの場所を大いに持て余した。そこで5人は螺旋階段の底から横穴を掘り始め、それぞれの空間を作り出すことにした。あるものは物置に、あるものは書斎にしたりと5人は無計画に拡張を続けたが、遺産が底をつく気配はなかった。そこで5人は投資として美術品を蒐集し、穴の底に保管することにした。湿気の問題に腐心したが解決してしまえば一年中、穴の気温は一定に保たれ、その構造はセキュリティの観点からも都合が良かった。美術品の収蔵が軌道に乗り始めると、拡張速度も上がり、次第に人が集まりだした。穴掘り師を筆頭に、壊れた道具を直すために鍛冶屋が定住し、医者が必要になり、そして、料理人と続き、気づけば穴の中には小さな町ができ、家族を迎え入れるものも出始めた。拡張に伴い、地上との運び屋が生命線になり、穴の中での農耕も試みられた。一週間に一度は陽の光を浴びることが義務付けられたが、拡張につれて地上との距離が伸びると誰も外に出なくなった。そこで、紫外線ライトが各家に取り付けられた。穴の中で結婚し、子を授かるものも珍しくはなかった。ひとつの区画は幅50m、奥行き50m、高さ10mに整地され、壁は白く塗られてホワイトキューブとなった。穴掘り師たちが築いた空間に美術品が収蔵されていたが、いつ頃からか展示し、皆で鑑賞するようになった。そして穴はラビリンスとよばれるようになり、相続者たちも自らをキュレーターと名乗るようになった。キュレーターは絵画、彫刻、映像などそれぞれ専門の分野を決め、美術作品を蒐集し、展示していった。彼らにはもともと審美眼などなかったが、ありあまる富はいつでも彼らの味方となった。老人の話は終わらない。底にたどり着くまで語ることはいくらでもあるのだ。深淵に引きずり込まれてしまうのではないかと錯覚し、肌が粟立つも、足は先へ先へと勝手に降りていった。 やっとの思いで螺旋階段の底に着いたころにはカズミの身体は悲鳴をあげていた。横穴を進み、いくつかの小部屋を抜けたところで、視界がひらけ、巨大な空間に到達した。老人は美味そうに水を飲み、カズミにも勧めてくれた。そこは話に聞いたホワイトキューブの展示室だった。煌煌と照らされた空間は充分にスペースを取って、絵画が一点一点展示されている。そして壁にかけられた作品に呼応するように金属や石材の彫刻作品が配置されていた。巨大な稼働壁が迷路を形成し、作品同士が鑑賞の妨げにならないよう最善が尽くされて区切られていた。ここは始まりの展示室で、最初期の収蔵品が鑑賞できる。お粗末なキュレーションだがねと、老人が言い、こっちだ。と感心仕切っていたカズミに催促する。巨大な稼働壁を抜けた奥、積み上がったブラウン管の作品の周りに、人集りができており、荷台引きの馬の姿があった。あれは運び屋たちさ。いまじゃ先端はここから数百キロは先になっている。向こうでは町ごと移動しながら掘り進めていてね、中では農耕も行われてるが、足りないものは沢山ある。美術品もそうだが、画材なんかも必要でね。ラビリンスのアーティストも結構な数になったが、外の芸術を見ることは刺激になる。運び屋は生命線なのさ。いまは3つの旅団に分かれて中継しながら奥まで外の世界の資材を運び、中からは岩盤が運び出されている。全盛期は旅団ももっとたくさんあったのだがね。今は拡張の速度もかなり落ちた。どうするかい、これから出発する。芸術を鑑賞する旅さ。飽きはしないだろう。そして、先端にたどり着けば君は晴れてラビリンスのミュージアムショップオーナーだ。地上には帰れないがね。この美術館は未だに設営中さ、一成が始めた時から数えれば70年近くになるが、いまだ終わっていない。穴掘り師たちが整地した空間を、インストーラーたちはキュレーターの指示で飽きることなく、いつまでも取っ替え引っ替えやってる。勘の良さそうな君ならもう気づいているだろう。私もキュレーターのひとりだよ、二代目だがね。さあ、どうする。老人はカズミに手を差し伸べた。大きな手だ、そう思った。 はたして、自分の選択は正しかったのだろうか。壁にかけられた絵画を眺めながら逡巡する。どんな選択も後悔は残る。ならば、より自由に繋がる選択をしよう。後悔を鼓舞する無意味な独り言は反響して消えていった。店を持つ夢を今し方、手放したところだ。誰もいなくなった巨大なホワイトキューブで、作品を独り占めしながら長い時間を過ごした。そして、気に入った作品はキャプションまで丁寧に描いて記録した。描いていて直ぐに気がついたのだが、作品のキャプションに記載された作家名は全て上から殴り書きで消されていた。誰かの悪戯だろうか、答えを知るだろう老人は、運び屋の旅団と共に旅立ってしまった。謎がまたひとつ増えたが、もう気にならなかった。独り残ったカズミは長い長い螺旋階段を登りだした。別れ際に老人にした質問を思い出す。この展覧会にタイトルはあるのかと。エッエッと笑い、老人は長らく『無題』だったがね、いいのを思いついたよ『人々を照らす明かり』はどうかねと答えた。 #01がびっくりするほど好評で、完売後もお問い合わせが相次いだキャプションシリーズ。 満を辞して、#02をリリースします! フロント右胸のポケット上に作品のキャプションを、作家名は殴り書き刺繍で、1点1点消し方が違うのも#01から変わらずです。 季節関係なくTシャツ着るだろう、着てくれるだろうってことで、このタイミングで敢えて、 気合い入れてプレゼンします!! 大人気のヘザーグレーに加え、潔く(ENTERTAINMENTでは初の)ホワイトいきます! 押忍!! caption - land art ホワイト Sサイズ:着丈65, 身幅47.5, 袖丈18.5 cm Mサイズ:着丈68, 身幅50, 袖丈19.5 cm Lサイズ:着丈71, 身幅52.5, 袖丈20.5 cm XLサイズ:着丈74, 身幅55, 袖丈21.5 cm 綿100% 6.2オンス caption - sculpture ヘザーグレー Sサイズ:着丈65, 身幅47.5, 袖丈18.5 cm Mサイズ:着丈68, 身幅50, 袖丈19.5 cm Lサイズ:着丈71, 身幅52.5, 袖丈20.5 cm XLサイズ:着丈74, 身幅55, 袖丈21.5 cm 綿100% 6.2オンス design by Ryohei Kazumi photo & text by takaaki akaishi
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Someone’s Collection Blues #02 スウェット
¥5,500
Someone’s Collection blues 強制労働の呪縛から抜け出したENTERTAINMENT店主のカズミは、彼を救ってくれた女と古都での出会いを糧に、次なる目的地を学園都市へ定めた。 その旅程、立ち寄った宿場町で商品のコンクリートオブジェを褒めちぎる老人と出会った。エッエッと笑う老人は殊更にカズミの商品群を褒め、自分はこの宿場から三里先にあるラビリンスと呼ばれる美術館の関係者だと名乗り、商品の販売をやらないかと持ちかけてきた。美術館という言葉に興味を惹かれ、二つ返事で了承すると、では行こうとカズミを車に乗せ、車中でこれから行く場所の成り立ちを教えてくれた。それは、小田一成という男から始まる。 小田一成は古くからこの地を守ってきた一族の末裔だという。責任感が強く、勤勉な一成は皆から信頼される傑物であった。22歳の春に父が死に、若くして家を継ぐとともに、結婚したが、時を同じくして始まった戦争によって戦地に出兵されてしまった。激動の時代さね。運転しながら老人は饒舌だった。何度もこの話をしたのだろう、淀みなく昔話は続く。一成の勤勉さは戦場でも変わることなく、よく助け、よく殺した。戦後、やっとの思いで国に帰るも、彼を待つ妻もお腹にいたはずの子も、生家も、帰りを待つ全ては空襲で消え失せていた。抱えきれない絶望と裏山にあった石切り場を残し、先祖から受け継いだ広大な土地を全て売払った。そして、その金を元手に、戦後の混乱を利用して莫大な富を築くと、残った石切り場を深く深く堀り、20年の歳月をかけて1000mの地下まで続く螺旋階段を作り上げた。 そろそろ到着だと老人が言い、話を途中で切り上げた。あなたが一成か。カズミが問うと老人は一成は死んだよと答えた。1000mに到達したあたりだ。きりでも良かったんじゃないのか。穴の底で己の頭を猟銃で撃ち抜き、この世から消えたよ。莫大な遺産と螺旋階段を残して。老人はエッエッと笑い、車は停止した。 石切り場の切立った岩壁の一部に、コンクリートの壁が移植されたようにひっつき、3m程の扉はくすんだモスグリーンだった。堅牢な扉を開けるとすぐに地下へ続く螺旋階段が見えた。階段は男が二人並んでも余裕がある広さで、なだらかに地下へ向かって行く。丸いランプが等間隔で階段を照らしているので考えていたよりも歩きやすかった。前をいく老人が続きを語り出す。先は長い、ゆっくり聞いてくれと言って。 一成の死後、遺言に従って穴掘りを手伝った5人に螺旋階段と遺産が相続された。相続者たちは莫大な金とこの場所を大いに持て余した。そこで5人は螺旋階段の底から横穴を掘り始め、それぞれの空間を作り出すことにした。あるものは物置に、あるものは書斎にしたりと5人は無計画に拡張を続けたが、遺産が底をつく気配はなかった。そこで5人は投資として美術品を蒐集し、穴の底に保管することにした。湿気の問題に腐心したが解決してしまえば一年中、穴の気温は一定に保たれ、その構造はセキュリティの観点からも都合が良かった。美術品の収蔵が軌道に乗り始めると、拡張速度も上がり、次第に人が集まりだした。穴掘り師を筆頭に、壊れた道具を直すために鍛冶屋が定住し、医者が必要になり、そして、料理人と続き、気づけば穴の中には小さな町ができ、家族を迎え入れるものも出始めた。拡張に伴い、地上との運び屋が生命線になり、穴の中での農耕も試みられた。一週間に一度は陽の光を浴びることが義務付けられたが、拡張につれて地上との距離が伸びると誰も外に出なくなった。そこで、紫外線ライトが各家に取り付けられた。穴の中で結婚し、子を授かるものも珍しくはなかった。ひとつの区画は幅50m、奥行き50m、高さ10mに整地され、壁は白く塗られてホワイトキューブとなった。穴掘り師たちが築いた空間に美術品が収蔵されていたが、いつ頃からか展示し、皆で鑑賞するようになった。そして穴はラビリンスとよばれるようになり、相続者たちも自らをキュレーターと名乗るようになった。キュレーターは絵画、彫刻、映像などそれぞれ専門の分野を決め、美術作品を蒐集し、展示していった。彼らにはもともと審美眼などなかったが、ありあまる富はいつでも彼らの味方となった。老人の話は終わらない。底にたどり着くまで語ることはいくらでもあるのだ。深淵に引きずり込まれてしまうのではないかと錯覚し、肌が粟立つも、足は先へ先へと勝手に降りていった。 やっとの思いで螺旋階段の底に着いたころにはカズミの身体は悲鳴をあげていた。横穴を進み、いくつかの小部屋を抜けたところで、視界がひらけ、巨大な空間に到達した。老人は美味そうに水を飲み、カズミにも勧めてくれた。そこは話に聞いたホワイトキューブの展示室だった。煌煌と照らされた空間は充分にスペースを取って、絵画が一点一点展示されている。そして壁にかけられた作品に呼応するように金属や石材の彫刻作品が配置されていた。巨大な稼働壁が迷路を形成し、作品同士が鑑賞の妨げにならないよう最善が尽くされて区切られていた。ここは始まりの展示室で、最初期の収蔵品が鑑賞できる。お粗末なキュレーションだがねと、老人が言い、こっちだ。と感心仕切っていたカズミに催促する。巨大な稼働壁を抜けた奥、積み上がったブラウン管の作品の周りに、人集りができており、荷台引きの馬の姿があった。あれは運び屋たちさ。いまじゃ先端はここから数百キロは先になっている。向こうでは町ごと移動しながら掘り進めていてね、中では農耕も行われてるが、足りないものは沢山ある。美術品もそうだが、画材なんかも必要でね。ラビリンスのアーティストも結構な数になったが、外の芸術を見ることは刺激になる。運び屋は生命線なのさ。いまは3つの旅団に分かれて中継しながら奥まで外の世界の資材を運び、中からは岩盤が運び出されている。全盛期は旅団ももっとたくさんあったのだがね。今は拡張の速度もかなり落ちた。どうするかい、これから出発する。芸術を鑑賞する旅さ。飽きはしないだろう。そして、先端にたどり着けば君は晴れてラビリンスのミュージアムショップオーナーだ。地上には帰れないがね。この美術館は未だに設営中さ、一成が始めた時から数えれば70年近くになるが、いまだ終わっていない。穴掘り師たちが整地した空間を、インストーラーたちはキュレーターの指示で飽きることなく、いつまでも取っ替え引っ替えやってる。勘の良さそうな君ならもう気づいているだろう。私もキュレーターのひとりだよ、二代目だがね。さあ、どうする。老人はカズミに手を差し伸べた。大きな手だ、そう思った。 はたして、自分の選択は正しかったのだろうか。壁にかけられた絵画を眺めながら逡巡する。どんな選択も後悔は残る。ならば、より自由に繋がる選択をしよう。後悔を鼓舞する無意味な独り言は反響して消えていった。店を持つ夢を今し方、手放したところだ。誰もいなくなった巨大なホワイトキューブで、作品を独り占めしながら長い時間を過ごした。そして、気に入った作品はキャプションまで丁寧に描いて記録した。描いていて直ぐに気がついたのだが、作品のキャプションに記載された作家名は全て上から殴り書きで消されていた。誰かの悪戯だろうか、答えを知るだろう老人は、運び屋の旅団と共に旅立ってしまった。謎がまたひとつ増えたが、もう気にならなかった。独り残ったカズミは長い長い螺旋階段を登りだした。別れ際に老人にした質問を思い出す。この展覧会にタイトルはあるのかと。エッエッと笑い、老人は長らく『無題』だったがね、いいのを思いついたよ『人々を照らす明かり』はどうかねと答えた。 #01がびっくりするほど好評で、完売後もお問い合わせが相次いだキャプションシリーズ。 満を辞して、#02をリリースします・ フロント右胸に作品のキャプションを、作家名は殴り書き刺繍で、1点1点消し方が違うのも#01から変わらずです。 裏起毛で厚手生地のミックスグレーに加え、かなりいい具合のインディゴカラーを、 気合い入れてプレゼンさせていただきます!! 押忍!! caption - painting ミックスグレー Sサイズ:着丈65, 身幅52, 袖丈59 cm Mサイズ:着丈68, 身幅55, 袖丈60 cm Lサイズ:着丈71, 身幅58, 袖丈61 cm XLサイズ:着丈74, 身幅61, 袖丈62 cm 綿65%、ポリエステル35% 裏起毛 12.0オンス caption - photo インディゴ Sサイズ:着丈63, 身幅48, 袖丈61 cm Mサイズ:着丈66, 身幅51, 袖丈62 cm Lサイズ:着丈69, 身幅54, 袖丈62 cm XLサイズ:着丈72, 身幅57, 袖丈63 cm 綿100% 裏パイル地 12.2オンス ★インディゴ染料及び顔料を使用している製品は、染料及び顔料の性質上、水や汗や摩擦などにより多少色落ちしたり移染することがあります。必ず単独での洗濯をお願いいたします! design by Ryohei Kazumi photo & text by takaaki akaishi model by shogo kosakabe
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酵素PUNK Tシャツ
¥3,500
酵素PUNK カオルは分厚いアクリルで隔てられた簡素な部屋に座る祖母を見ている。 会話のために無数の穴が円形に空いたアクリル越しの祖母は幾分やつれて見えるが、いつもの笑顔は変わらない。面会時間は限られている。久しぶりの挨拶もそこそこに本題を切り出す。なぜ、こんなことになったのかと。祖母は何度も繰り返された尋問にすっかり飽きてしまったようで、全く、アンタもかと、ため息をついた。皺で縁取られた笑顔が仏頂面に変わり、ただ、美味しいおむすびを食べて欲しかっただけと答えた。 カオルの祖母、江野道ヨシは87歳と4ヶ月、先日、突然やってきた警察に身辺警護の名目で、この警察署に連行され、以来、拘留が続いている。 もともと、祖母は大らかで、細かいことは気にしない性格であったけれど、罪を犯すような人間ではないし、この年齢で突飛な行動をとるような…。 そこまで考えてカオルは『おむすびたもつ』の人気が出始めた頃を思い出していた。そういえば、急に店が繁盛しだしたのは祖父の死後だった。あの頃からおばあちゃんは生き生きとしていたように感じる。 「教えて、おばあちゃん。おじいちゃんが亡くなってからおむすびに何があったの」 途端、ヨシの表情が消えた。視線は虚空を見つめているようだった。長い沈黙の後こちらを見据える。 そうさね、カオルちゃん。アンタにならねえ、そう。ヨシはぼそぼそと言葉にならない言葉を織り交ぜ、語り始めた。 「保さんが亡くなった日、あれはとてもとても悲しい日だったの」 『おむすびたもつ』はカオルの祖父母、江野道保とヨシが経営した商店街の一角にある、慎ましい小さなおむすび屋である。持ち帰り専門で、人ひとりを相手にするのがやっとの、煙草屋のようなカウンターが通りに突き出していた。そんな、『おむすびたもつ』に転機が訪れるのは保が病に倒れ、その葬儀が行われる前日であった。 ヨシは保と共に歩んだ60年、時間という倦怠感がヨシを蝕むことはなく、愛を誓ったあの日から、一切、変わることなく保を愛し続けていた。 だからこそ、保の突然の死によって唯一の居場所が崩れ去ったことで酷く動揺した。衰えた瞳からは止めどなく涙が溢れ、長い人生で達観したつもりでいた自分が、赤子のように泣き腫らし、取り乱していることが不思議でもあった。 保の葬儀は整理のつかないヨシの心を他所に、粛々と準備が進んでいった。いつまでも一緒に居られると思っていたのに、保は燃やされて灰になってしまうのだと思うと胸が張り裂けそうだったし、張り裂けて仕舞えばいいとすら思った。 その刹那、ヨシの心に、あるアイデアが舞い込んだ。思いついた瞬間にアイデアは成長し、身体は若返ったかのように素早く動き始めた。ヨシは人生で初めて人を騙す決意をしたのだった。保を湯灌していたところに駆けつけると、風呂の後片付けだけはさせてくれと言い張り、誰にも見つからないように湯をすべて容器に移し替え、店の厨房に持ち込んだ。そして、保を湯灌した湯を使い、米を炊いたのだった。居なくなってしまう前に、保の一部を 自分の身体に残しておきたいという、純粋な愛ゆえの行動だった。米が炊きあがると、いつものようにおむすびを、塩握りにした。そして一口頬張ると目の前が真っ白になった。いままで自分が握ってきたおむすびとはまるで違う。天にも昇る味であった。天に昇った保の出汁おむすびは、溢れ出る悲しみを引っ込ませ、おむすび屋としての更なる高みをヨシにみせた。この味は自分だけの感覚なのだろうか、昂る気持ちがそうさ せるのだろうか、気になって仕方がないヨシは、慌ただしく葬儀の準備をする子供達に、労いを込めたと言って、保の出汁おむすびを振る舞った。皆の反応はすこぶる良かった。膝から崩れ落ちる孫、止めどない涙を流す長男。カオルもその場にいた。おむすびを一口、噛めば噛むほど祖父の顔がありありと蘇り、一緒に行った行楽の思い出がリフレインした。ヨシの口許は緩んでいた。 保の葬儀が終わると直ぐに店を再開した。「お爺さんが亡くなっても変わらずお店は続けるの、ひとりだけど思い出があるからね。」その言葉に子供達は感動していた。 勿論、おむすびの隠し味には保の出汁を使った。常連たちが買いに来てくれ、その味に感動してくれた。しかし、保の出汁は保存に向かなかったのか、すぐに味は落ちてしまった。 そこで、苦肉の策ではあったが、家族が入った後の風呂の湯を使ってみることにした。保の出汁には及ばないが、近い味の表現に成功した。米を炊く水を、入浴した風呂の水にするだけで、劇的に味が変わるという不思議は、ヨシの研究欲に火をつけた。家族それぞれ、男、女、小児と採取して味を比べわけ、梅には男、おかかには小児、鮭はブレンドと使い分けることで『おむすびたもつ』は常連のクチコミもあってか、多い日には行列ができる繁盛店へ と変貌を遂げつつあった。 ヨシは厨房に人を入れることをよしとせず、というか、入れる訳にはいかず、1日に握れるおむすびの数が減ったが、これがかえって功を奏したようで、さらに店は人気となり、開店即完売状態となった。この頃から、店には熱心なリピーターが増えるようになっていった。皆一様にこれがないと元気がでないと言うようになり、感謝の言葉を添えて購入していった。最上の褒め言葉を貰うことで、料理人としてのヨシのこころは、更なる高みへと邁進していくのだった。 新たな一手は、近所の銭湯『万歳湯』にあった。利用者の多い休日、たくさんの人間が浸かった閉店間際を狙って、銭湯に出向き、こっそり湯を持ち帰ると、『万歳湯』の出汁でおむすびを握った。味加減如何と言えば、これがまた火花散るパンチの効いた味であった。これには明太子との相性が抜群で、この味が、それまで客層ではなかった若者たちに高評価を得、わかり易く言うならば盛大にバズった。 こうなるとヨシの狙いは温泉に切り替わる。死ぬ前の楽しみと孫を丸め込んで゙は名湯を巡り、持ち帰った温泉水を使っていくつものおむすびを握った。基本は家族の風呂の出汁である。これがベースとなり、そこに『万歳湯』、温泉水とブレンドしていくことで具材に合わせていくつもの味を表現した。研究に打ち込むことで『おむすびたもつ』の開店日は不定期となった。店には毎日人だかりが出来、定休日とわかると客は肩を落とし、悲しみに泣き崩れることもあった。開店日はおむすびを求め、我先にと押し合い圧し合い、喧嘩が起きることも珍しくなかった。客たちの瞳は血走り、おむすびは高額で転売されることもあった。運良く買えても食べるまでは安心できず、おむすび狩りが多発し、刃傷沙汰の危険なおむすび 騒動はメディアで取りあげられ、『おむすびたもつ』の人気を更に煽った。開店日にはガードマンを雇い、争いを諌めなくてはならず、あちこちで衝突が起きた。馬鹿野郎、ぶっ殺すの合唱で商店街は赤く染まるのだった。ついに地域の安全を守れないという理由から商店会長から『おむすびたもつ』の営業自粛を土下座で懇願されるに到った。 ヨシの願いはひとつ。保の出汁でつくったおむすびの味をもう一度味わうこと、そしてそれを超えることであった。しかしヨシは心のどこかで気づいていた。保の出汁を超えることはできないのだと。老人には引き際も大事かと思うようになり、『おむすびたもつ』は無期限休業となった。しかし、おむすびを楽しみにしていた客たちは違った。ヨシのおむすびは、高純度の麻薬を超える依存性を持ち、常連客は皆、おむすび無しには生きていけない中毒者に変貌していた。そして、彼らの依存症は、明確な破壊衝動へと形を変えていった。角材で商店街を襲撃し、商店会長を病院送りにした頃には、立派な暴徒の集団となっていた。ここに到り、警察はヨシをこの騒乱の重要参考人として任意同行した。これには暴徒から保 護する名目もあったのだが、返って火に油を注ぐ結果となり、膨れ上がった怒りは臨界点を瞬く間に超え、投げ込まれた火炎瓶で街は火の海と化した。街の荒廃と共に暴徒は増加し、初動を見誤った政府に対する批判は一層激化した。これを好機と現体制の崩壊を目論む政治屋、暴徒、有象無象が集結した結果、革命軍が爆誕するに至った。 カオルは開いた口が塞がらなかった。祖母が何故か捕まり、革命軍の狙いがこの警察署にあると知り合いの行商人から聞いた時から、嫌な予感はしていた。そもそも、『おむすびたもつ』に行列が゙出来始めたのだって不可思議だった。不審な点は線で繋がり、街を焼く大火の原因が、体制崩壊を目論む革命気取りの連中の勃興が、その渦中に祖母と祖母の握ったおにぎりがあった。なんならカオルの出汁も一役買っていた。確かに、おむすびは人の手で握ると美味しくなると聞いたことがある。人の手の酵素の力がおむすびを美味しくするのだと。だからといって風呂の湯がここまで効果を及ぼすのだろうか。俄かに信じがたいが、実際に騒乱は起きている。というか、今気づいたけど、私もおじいちゃんの出汁おむすび食べてるし。そもそも保の出汁って何よ。美味しかったけど。混乱してカオルの頭の中はグチャグチャだった。 「もうすぐ、革命軍がおばあちゃんを救出に来るよ。この様子だと、警察署はもたない思う」 「革命軍ねえ」 ヨシはおむすび以外に興味がなく、政治なんてものは若い者がやれば良いと思っている。 「おばあちゃんの話を聞いて確信したよ。連中はおばあちゃんをここから助けて、おむすびを握って欲しいのだと思う。いや、助けるというか、利用したいというか。おむすびを使って煽動したいのだと思う。だから、レシピが知りたいんだよ」 「良いかい、カオルちゃん。おむすびの秘密はアンタに教えた。継ぐも辞めるもアンタが決めなさい。私はもう誰にも喋らんさ」 ヨシはそう言って、いつものようにクシャリと笑った。何を言っているのかカオルは理解するのに時間がかかった。 「それにね。おむすびは道具じゃないの。食べるものなのよ」 カオルは背筋が寒くなるのを感じていた。 たった今、祖母から孫へ一子相伝の秘術が口伝にて継承されたのだった。 廊下から、けたたましい音が鳴り響く。怒号と乾いた銃声で我に帰ると、祖母と目が合った。その瞳はひときわ輝いて見えた。 「好きにやんなさい。握ればなんでも美味しいのよ、おむすびは」 Sサイズ:着丈63, 身幅47, 袖丈18 cm Mサイズ:着丈68, 身幅52, 袖丈22 cm Lサイズ:着丈72, 身幅55, 袖丈22 cm Cotton 100% , 6.2oz design by ryohei kazumi photo & text by takaaki akaishi
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The Perfect Place Tシャツ
¥3,500
The Perfect Place アカイシは癒しを求めていた。昨日、長年勤めていた写真館の仕事にピリオドが打たれてしまったからだ。「インスタ映え、自撮りの時代だもんね」スタジオでの撮影は、いつしか時代と不釣り合いになっていたのかもしれない。3年間のスタジオカメラマン生活、それはアカイシにとって、人生で最も長く続いた仕事でもあった。しばしば「仕事だから」と言っていたが、まったくやりがいを感じていなかったわけでもない。けれど、あくまで仮住まい、その決意は変わらずにいたが、よもや突然なくなるとは思いもしていなかった。案外、居心地が良かったのかもしれない。それほどない蓄えを握り、アカイシは電車に駆け込んだ。港へ向かうと、「伊豆大島まで」と乗船券を買った。 潮風が心地よかった。すべてを洗い流してくれるようだった。船内で物思いに耽っていると、背中に視線を感じた。そっと振り向くと、こちらを見ている若い女がいた。肌艶もよく、ノースリーブからほどよく日焼けした肌がのぞく。アカイシの視線に気づくと微笑んだ。ちょっと一枚と指でサインを送り、シャッターを切った。いい写真だった。 島に着くなり、アカイシは当て所なくぶらついた。目的なんてなかった。ただぼうっと、夕陽が沈むのを眺めた。宿も決まらないまま、すっかり夜も更けてしまった。商店街を歩いていると、ちょうど「スナック桃源郷」にライトが灯ったところだった。「とーげんきょー」アカイシは吸い寄せられるように店の扉を叩いた。 内装はどピンク、桃にちなんだグッズがそこかしこに置かれたカウンター、2人がけの小さなテーブル、店内は5人も入ればきゅうきゅうだ。先客はなかった。 「いらっしゃい、何にします?」 アカイシはカウンターに腰掛けながら「そうさねぇ、ネクターとか?」 ニヤリとしたオーナーは、ジョッキいっぱいにネクターを注ぎ、ドンっと置いた。 「サービスだよ」 アカイシは一気に飲み干した。そして、つらつらと写真館での出来事を語り始めた。 オーナーが腹を抱えて笑ったのは、ヅラのおっさんがスタジオに来た時の話だった。おっさんにヅラがズレていることをそれとなく諭すために、カメラの角度をズラしていたのに、おっさんもその動きに合わせてポージングしてきたため、最終的にズレるどころか落ちてしまったという話。 「その落ちた瞬間の写真が傑作で」 アカイシはおかわりを頼んだ。マスターもすっかりアカイシのことを気に入っていた。すると、少し考える素ぶりを見せ、うんうんと頷き、こいこいとアカイシに手招きをした。 店の奥にはVIPルームがあった。そこには桃源郷という名に勝るとも劣らない、まさにパーフェクト・プレイスが広がっていた。 穏やかな場所、何ものにも縛られない、時間もない場所。すっかり気に入ったアカイシは、いつのまにか懐いていた犬を連れて散歩したり、趣味の観葉植物を愛でたりしながら無限の自由を謳歌した。歌いたいときに大声で歌い、好きなところで立ち小便もした。すっかりマスターのことなど思い出せなくなっていた。ここが伊豆大島という想像すらできなくなっていた。 一体どれくらいの月日が経っただろう。驚くべきことにアカイシはまったく眠気を感じなかった。一日中起きて、やりたいことのすべてをやりたいようにやれた。あらゆる義務や道徳から解放された。そのうち、瞬きや、爪を支えるわずかな筋肉、毛穴の収縮、毛細血管の流れすら感じ取れるようになっていた。重力も知覚できるようになった。次第に、アカイシという人の形を構成していた物質が原子レベルでバラバラになっていった。ふわっと浮いた。身体という感覚も消えた。あらゆる束縛から解放されて残ったのは意識だけだった。 記憶も薄れ、“アカイシ”という名前からも解放された。初めて無限の意味を理解した。そこはまさに完璧な場所だった。たゆたう意識の赴くまま、どこやいつはすっかりわからなくなっていた。すると、遠くから響くかすかな信号音を感じ取った。耳というかつてあった器官を想像する。 山の彼方のそら遠く、幸い住むと人のいう。 「おーい」はるか遠く、宇宙の彼方のそら遠く、聞き覚えのある男の声をかすかに感じた。 「おーい」かつてアカイシだったものは「カ…ズ、ミ?」という記憶の地層から言葉が浮かぶのを感じた。 けれど、その意味ももはやわからなくなっていた。 Sサイズ:着丈66, 身幅49, 袖丈19 cm Mサイズ:着丈70, 身幅52, 袖丈20 cm Lサイズ:着丈74, 身幅55, 袖丈22 cm Cotton 100% , 5.6oz design by ryohei kazumi photo by takaaki akaishi text by taichi osakana
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I GET MAD WHILE SMILING Tシャツ
¥3,500
I GET MAD WHILE SMILING 争いの絶えない時代に安全な此処から、私は笑い続けることをやめないでいる。 笑いとは、集団を成す人々が、他者に対して知性を働かせた時に生まれるとベルグソンは言っていた。ひとりではないからこそ、笑えるのだと。 私は微笑み続けている。こころの根っこにある部分を隠して笑っている。 画面の向こうで起きている苛立ちに加勢するつもりはないし、下から上へスクロールする情報に、ときめきを感じることは少なくなった。 私は私の笑顔が好きになれない。それでも、今日もニッカリ笑い、真っ赤な歯茎が露わになる。 いつからだろう、行動の原動力だったはずの怒りが萎えたのは。根拠のない自身が無くなったのは。 醒めきった想いを抱いて、トマトとアボカドの冷製パスタはいつも美味しい。 あれこれ経験したと、良い大人になったと言い張って、いち抜けたと気取っている。 私は笑いながら怒る。やがてくる、打席の為に。 腐るこころに鞭打つように、 今はただ、微笑む私は常に怒りで満ちている。 Sサイズ:着丈68, 身幅44, 袖丈20 cm Mサイズ:着丈71, 身幅49, 袖丈20 cm Lサイズ:着丈75, 身幅54, 袖丈22 cm Cotton 100% , 6.1oz design by ryohei kazumi photo & text by takaaki akaishi ★ご注意ください! 初回ご着用前に他のものと分けて洗濯してください。顔料染め製品で用いている染色方法の特質上、剥がれ落ちた顔料が製品の表面に残ることがあり、 白物、淡色物の衣類と一緒に洗濯すると色移りすることがありますので、同系色のものと一緒に洗濯してください。 冷水で洗濯していただくと色移りが多少防げます。色の変化は製品染め加工の特質によるものです。
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既視感JAIL キャップ
¥3,500
既視感JAIL 巨大な黒猫のデジャブに度々遭遇するアカイシが、カズミにこの悪夢を告白したことをきっかけに制作が始まった。 当初、そのデザインが受け入れられないスタッフからの既読無視は、総スルーに至り、あわや制作中止か、という事態にまで発展するが、醒めた世の中へ血染めの鉄槌を加えるという大義を具現化せしめんと商品化を決意。 全ての情報がシェアされ、繋がらずにはいられない現代を、懺悔無用とサバイヴするあなたに贈る。 4年前にカズミとアカイシの思いつきで、メッシュキャップタイプをごく僅かのみ制作した幻のキャップを、ツートンキャップでリイシューします。 刺繍も少し小さくして、一応被りやすさを意識しました。 改めて「全ての情報がシェアされ、繋がらずにはいられない現代を、懺悔無用とサバイヴするあなたに贈る。」 design by ryohei kazumi photo & text by takaaki akaishi