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Brand New Hell パーカー

¥5,500 税込

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Brand New Hell

世界中の人々を楽しく元気にする会社ENTERTAINMENTの業績が伸び悩んでいる。それは、アカイシの気合いが足りないからだというカズミ。山に登れば精神も身体も整い、自ずから活力が湧いてくると信じるカズミに、アカイシは無理やり登山に連れて行かれる。
アカイシはいやいや歩いているから足取りも重い。軽快に進むカズミと途中ではぐれ、遭難してしまったアカイシは、ある集落へ辿り着く。しかしそれは集落というよりも秩序が無く、混沌とした異様な雰囲気の場所だった。
なんとなく地獄とでも表現したくなるような、立ち入る事が憚られる雰囲気に満ちていた。
日が暮れて不安も膨らみ、疲れ果てていたアカイシには、そんな異様な場所であっても立ち入らないという選択肢はなかった。華やかに明かりが灯るが、なにもかもが虚ろで薄っぺらい地獄といった感じだった。恐る恐る、そんな地獄の中を歩き進む。辺りを行きかう着飾った鬼の様な怪物や、それに従う人間達の姿が見える。その全てからは、まったく覇気が感じられない。そしてアカイシの存在など誰も気に留めない。もしかしたら、彼らにアカイシは見えていないのかもしれない。そんな事を思うからか、少しづつ恐れるという気持ちは薄れていった。
歩いていくと、多くの人間が無気力に横たわる一角が目に入ってきた。疲れていたアカイシは彼らと一緒になって無気力にそこに横たわった。そして、なんやかんやあって、カズミは山中の大きな松の木の根元でアカイシを発見した。アカイシは虚ろな目で宙を見つめて立っていた。カズミに全く気が付かない。カズミはアカイシに詰め寄り肩に手を置き、無事に発見する事が出来た事を、心の底から喜び安堵した。
そして、遭難して何処にいたのか尋ねた。アカイシが遭難していた5日間、カズミは地元青年団の4人と毎日、山に入り日の出から日の入りまで捜索していたのだ。アカイシが立っている松の木の前も何度も通っていた。
アカイシはゆっくりと語りだした。この世界は多層的に構成されている。カズミが現実だと思っている時間と空間は、世界のささやかな断片でしかない。地獄は存在している。その地獄は恐れるべき場所ではない。淡々と語るアカイシの眼をのぞき込むと、とても静かな冬の夜空のようだった。
とりあえず、青年団の4人とカズミは、アカイシを連れて下山し、近くの小さな食堂に入った。温かいお茶が出てきた。それを不思議そうに見つめ、持ち上げて、口に運ぶアカイシ。お茶を飲み干すと、すっかり眼の中の夜は、朝の太陽のような光を湛えていた。遭難中の虚ろな記憶は、起床した時に覚えていない夢のように霧散しようとしていた。

数日後カズミは、アカイシが見た地獄を描かせようとサツカを呼び出した。サツカは何も知らされず、待ち合わせ場所に指定されたENTERTAINMENT近くの喫茶店に向かった。待ち合わせ時間より30分ほど早く到着した。店内にお客さんは数人いるものの、みんな小さな光る板をのぞき込んでいた。サツカはホットコーヒーを頼んで空いているテーブル席に座った。今日はカズミから、どんな話をされるのかなと考えた。そういえば最近、ENTERTAINMENTではインドネシアに実店舗を出店する計画が進行しているらしい。そんな噂を耳にしていた。そして、インドネシアでは首都をジャカルタから、なんとかという、たしか5文字くらいの、ヌサントラ?とかいう所に移転する計画が持ち上がっているらしい。インドネシアへの出店についての話かなと思いを巡らせた。そんな風にぼんやりしていると、予定の5分前にカズミとアカイシが現れた。
なんだか、カズミはいつもより疲れている。アカイシはいつもより活力に満ちている。2人もホットコーヒーを注文し席についた。
カズミから、アカイシが山で遭難した事、5日間の捜索のすえ松の木の根元でアカイシを発見した事、捜索に協力してくれた地元青年団のサカイがENTERTAINMENTに入社した事などを聞かされた。
そして、アカイシから、遭難中に出会った地獄の話を聞かされた。それはいわゆる地獄の話というよりは、次元を異にする時空間への旅行話を聞かされているような印象を受けた。アカイシには、カメラで写真を撮るように、見たモノを脳裏に焼き付け、鮮明に記憶として留めるという特殊な能力がある。だから彼に何かの説明を求めると、それが見てきたものであった場合、彼の口からは、とんでもなく詳細な細部が語られる事がある。今回は、いつもよりはかなり抽象的ではあるものの、とても作り話とは思えないほどの真実味を所々に感じた。サツカは自分の足元がどんどん傾いて、上も下も、右も左も、前も後ろも無くなっていくような感覚に襲われた。この世界には、まだまだ至る所に不思議が潜んでいる。多くの人間は科学の力をもってすれば、全ての事象に因果関係を見つける事が可能であると信じ込んでいる。しかし、それがいかに危うく、短絡的で稚拙な考え方であるか、アカイシの話を聞いてしまった後には、おのずからそう感じざるを得なくなってしまっていた。
今聞いた地獄を描いてもらいたい。そうカズミからサツカは依頼された。3人は3時間半以上も喫茶店で話していたが、ENTERTAINMENTインドネシア進出の話は全く出なかった。
家に帰ったサツカは、アカイシの語った言葉を思い出しながら紙に向かった。ペンを握る。線が紙の上を走り出す。サツカは、数年前ナガハタと合作で描いた『三極才の子供たち』という漫画の事を思い出していた。一方通行ではない時間と、超多次元空間に生きる登場人物たちが、地球の噂話をする、というお話しだった。その漫画はコピー機で印刷し、ホッチキスで製本して少部数を作っただけだった。今となっては、まったく手に入らない幻の漫画だ。なぜだかそのお話しと、アカイシの話はリンクする部分が多くあるように感じられた。サツカには、時間と空間を超越した世界を妄想するという趣向性がある。アカイシの話をスルッと飲み込めたもの、きっとそんな気質があったからだ。カズミはそれを知っていて、サツカにアカイシの見た地獄を描かせようと思ったのだろう。
3日後、地獄を描き上げてENTERTAINMENTに向かった。カズミとアカイシに見せた。雰囲気は出ている、と呟いたアカイシ。そして、日に日にあの時の脳裏に焼き付けた映像は薄くなっていっている。でもこの絵を見ると、なんとなく思い出すことが出来そうだ。
それを聞くと、カズミはその絵をENTERTAINMENTの商品にプリントして販売しようと提案した。結果、[ 8.0oz ヘビーブレンドプルオーバーパーカー ]の正面に大きめにプリントする事になった。
この世界が、まだまだ不思議で満ち溢れている事をこの地獄の絵が物語る。世界中の人々を楽しく元気にする会社ENTERTAINMENTの業績を、この商品が押し上げるかは正直わからない。しかし、この地獄の絵がプリントされたパーカーが、この世界に誕生した事には、時間と空間に縛られていない誰かの大きく強い意図を、なんとなく感じる。
全ての話を聞いたサカイはそう思った。ここ最近、アカイシはカズミとサカイを誘って山に登るようになった。

S:着丈63cm, 身幅51.5cm, 袖丈59cm
M:着丈65cm ,身幅57cm, 袖丈59cm
L:着丈68cm 身幅61cm, 袖丈59cm
XL:着丈71cm 身幅65.5cm, 袖丈59cm
コットン50% ポリエステル50%
裏起毛とコットン・ポリエステルの混紡 8.0オンス

design & model by Masahiro Satsuka
text by haruhiko nagiri
photo by takaaki akaishi

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